バリバリ新主流派のグリーン
1970年代中盤から80年代にかけて、マイケル・カスクーナによって発掘されたブルーノートの未発表音源シリーズが「Blue Note Classic LT series」(略称:BNLT)。ジャズの常識として、未発表音源と言えば、正式にリリースされた音源に比べると、何かどこかに問題があってお蔵入りになった音源というイメージがある。しかし、このBNLTシリーズは違う。
音源によっては正式にリリースされた音源を内容的に凌駕するものはざらにあるし、そのジャズメンの違った側面が聴かれる興味深い音源もある。未発表音源だからといって、何かどこかに問題があってお蔵入りになったという訳ではないものが殆ど。ブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンに未発表音源盤を一枚一枚手に取って、お蔵入りになった理由をとくと訊きたいくらいだ。
さて、この未発表音源盤は「そのジャズメンの違った側面が聴かれる興味深い音源」の類である。Grant Green『Solid』(写真)。LT-990番。1964年6月12日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), James Spaulding (as), Joe Henderson (ts), McCoy Tyner (p), Bob Cranshaw (b), Elvin Jones (ds)。ジャズ者のベテランの方々であれば、このパーソネルを見渡せば、ちょっとした違和感を感じるのではないだろうか。
そう、グラント・グリーンを取り巻くメンバーは、いわゆる「新主流派」の代表ジャズメンばかり。従来のハードバップとは異なる、モーダルな演奏をメインにした先進的な演奏を想像する。聴いてみれば判るのだが、この盤の演奏の雰囲気は明らかに「モード・ジャズ」。グラント・グリーンはファンクネス溢れる、パッキパキなシングルトーンが個性の「ファンキー・ジャズ」なギタリスト。そんなグリーンが新主流派のメンバーに混じって、モード・ジャズをやるのだ。
これがまあ意外にも、内容の濃い硬派でシリアスなモード・ジャズなのだ。リーダーのグラント・グリーンが全く以て「モード・ジャズ」に適応している。特に急速ナンバーでは、コルトレーン・カルテットから招聘したマッコイのピアノ、エルヴィンのドラムを向こうに回して、丁々発止とモード・ジャズを展開する。このモード・ジャズに適応したグラント・グリーンを聴いて、彼のテクニックの高さを痛感した。
決して、お気楽なファンキー・ギタリストでは無かったグラント・グリーン。そんなグリーンの新境地を記録した意欲盤。当時特有の新主流派的な演奏が耳新しく響く。これだけ、グリーンのギターの従来からのイメージを覆しているのだ。当時は評価が定まらなかったのだろう。セールスを重んじるようになった時代、お蔵入りもやむなし、である。しかし、こうやってカスクーナに発掘され、音源化されたことは幸運だった。
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