目立ちたがり屋が目立たない時
トランペットのフレディー・ハバード、根っからの「目立ちたがり屋」で、どんなセッションでも、とにかく目立ちたがる。大きな音で、テクニック豊かに吹きまくる、飛ばしまくる。それ故、グループ・サウンドのバランスが崩れることがほとんどで、1960年代のハバードのリーダー作は「いまいち」な感が強い。しかし、あるケースではそうはならずに、意外と好盤に仕上がっている盤もあるのだ。
Freddie Hubbard『The Hub of Hubbard』(写真左)。1969年12月9日の録音。ちなみにパーソネルは、 Freddie Hubbard (tp), Eddie Daniels (ts), Roland Hanna (p), Richard Davis (b), Louis Hayes (ds)。このパーソネルがこの盤の「肝」になる。この「一国一城の主」的イメージのジャズメンがハバードの「目立ちたがり屋」根性を抑制するのだ。
そのパーソネルを見渡すと、先ず目を惹くのは、ジャズクラリネットの大家、エディ・ダニエルズがテナー・サックスで参加。次いでバックのリズム・セクションは、卓抜したテクニックと強烈なスイング感が武器のローランド・ハナのピアノ、骨太重低音ベースのリチャード・ディヴィス、そして、ファンキー&スピリチュアルなドラマー、ルイス・ヘイズ。この盤、リーダーのハバードのバックに錚々たるメンバーがズラリ。しかも曲者ばっかり。
ハバードはいつもの様に「目立ちたがり」トランペットを早々に吹きまくるのだが、バックの4人、ハバードに負けず劣らず、テクニックに優れ、楽器をよく響かせた大きな音で吹きまくり、弾きまくり、叩きまくるのだ。
目立ちたがりのハバードが目立たない位にガンガンにやるのだから、リーダーのハバードも何時もと違う面持ちで、トランペットを吹いている。どうにもこうにも「お山の大将」の様に自分だけが目立つことが叶わない。これがハバードによっては良い方向に作用するのだ。
ダニエルズのテナーは、コルトレーンを少し聴きやすくした感じ。テクニックに優れ、大きな音で吹きまくる。これが結構凄い。ハバードの大きな音のトランペットが霞むくらいなのだ。さらにデイヴィスのベースはブンブンと重低音を轟かせ、ルイス・ヘイズのドラムはフロントを煽りまくる様に叩きまくっている。これだけ他のメンバーがガンガンにやっているのだ。
ハバードも自らがこれ以上大きな音を出すと、グループ・サウンドのバランスが崩れることは判っている。さすがの「目立ちたがり屋」もこの盤では観念しているようだ。他のメンバーの大きな音とテクニック溢れる展開に対抗すること無く、逆に殊勝に溶け込み、しっかりと良好なグループ・サウンドを成立させている。他のメンバーとのバランスが取れた中で、速い展開と大きな音でガンガンにハードバップをやっている。
こういうケースは数少ないのだが、ハードバップの中で良きトランペッターとして君臨するのは、この「他のメンバーが、目立ちたがりのハバードが目立たない位にガンガンにやる」ケース。この数少ないケースをハバードの参加セッションから探し出すのも、ジャズ盤コレクションの楽しみのひとつである。
★東日本大震災から7年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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