病気からの復活を示す記録 『After The Fall』
1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活したんだが、その頃のソロ・ピアノが『The Melody at Night, with You』(2014年3月30日のブログ)。これはキースの宅録のアルバム化であったが、かなり内省的でシンプルな展開。どれもがスローなテンポで終始しており、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂う感じで、どうにもこれが「復活作」なのか、と訝しく思ったものだ。
そこに出たのが、先日ご紹介した『Whisper Not』(2018年10月5日のブログ)。このスタンダーズ・トリオのライブ盤は素晴らしい出来だった。長い展開での「ビ・バップ」とでも形容したら良いだろうか、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事。これが、慢性疲労症候群という難病と闘った人の復帰後の演奏なのか、とビックリした。キースは本当に病気だったのか、と疑いたくなるような爽快な内容だった。
と、この復帰後ソロ作とスタンダーズ作との差がなかなか腹に落ちなかったのだが、そこにこの盤が登場した。Keith Jarrett『After The Fall』(写真左)。1998年11月の録音。先にご紹介した『Whisper Not』の9ヶ月ほど前のライブ録音になる。恐らく、闘病後復帰の程無い時期では無いかと思われる。復帰作とされるソロ・ピアノ盤『The Melody at Night, with You』の数ヶ月後のライブ・パフォーマンスなのではないか。このライブ盤のお陰で、やっぱりキースは重い病気と闘ってきたんだ、と確信することが出来た。
さて、このライブ盤、録音が良く無い。ECMレーベルの録音とは思えない。音の周りにうっすら霧がかかったような、音の輪郭がハッキリしない、ノッペリとしたメリハリの無い録音。ピーコックのベースは躍動感に欠け、ディジョネットのドラムは切れ味に欠ける。これではスタンダーズの演奏の全てが悪いという印象になってしまうので、録音が良く無いことを念頭に置きながら、キースのパフォーマンスを確認することが必要になる。
その録音の悪さを割り引いても、このライブ盤のキースの演奏はまだまだ本調子では無い。『The Melody at Night, with You』に通じる、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂うほど内省的で、指回しも明らかに切れ味が不足している。アドリブ展開もイマージネーションと閃きが不足気味で、キース独特の手癖でごまかしてしまうような、ちょっと平凡なフレーズも見え隠れする。これはどう聴いても、このライブでのキースは本調子では無い。まだまだ復調していない。逆に7ヶ月後の『Whisper Not』の素晴らしさが際立つ。
なぜ、今年の3月になって、『Whisper Not』のリリース後、18年経った今にこのライブ音源をアルバム化した理由が判らない。コルトレーンの名曲「Moment's Notice」などはもうヨレヨレ。まだまだ長いアドリブ展開は難しい時期だったようである。ジャズ者である我々に、闘病後に奇跡的復活を遂げた「人間キース」を感じて欲しかったのだろうか。僕はこの盤を「キースの病気からの復活を示すドキュメンタリー」と捉えている。
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