こんなアルバムあったんや・101
ECMレーベルは、創立者マンフレート・アイヒャーが、自らが選んだ「今日的」な音楽を記録し世に問うべく、1969年に立ち上げたレーベル。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。そんな中に、現代音楽風のこってこてフリーな盤あり、民俗音楽的なワールド・ミュージック風な盤あり、これってジャズなん、と思わず首を傾げるものもある。それでも、しっかりとECMの音楽になっているのだから素晴らしい。
例えばこの盤。Collin Walcott『Cloud Dance』(写真)。初めて聴いた時、思わず喫茶店の椅子から転げ落ちた(笑)。ジャケットを見ると、明らかにECMレーベルらしい素晴らしいデザインで、これはどんな音が詰まっているのか、とワクワクしながら聴き耳を立てていると、いきなり出てくる「捻れて伸びた弦の音」。これって「シタール」やん。
この盤、1975年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Collin Walcott (sitar, tabla), John Abercrombie (g), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。リーダーのCollin Walcott=コリン・ウォルコットは、米国のジャズ奏者。ラビ・シャンカールに師事してシタールを習得、シタール&タブラ奏者として活躍。1972年結成されたオレゴンのオリジナル・メンバーとして有名。しかしながら、1984年、ツアー中に交通事故にて客死。享年39歳であった。
シタールがジャズの楽器になるとは思わなかった。これが「なる」のである。が、シタール単独ではジャズは辛い。音が切れ味良くダラダラ伸びるので、フレーズのメリハリが付きにくい。シタール1本でジャズは辛いやろう、と思って聴いていたら、ちょっと捻れた個性的なエレギが入ってくる。これが絶妙。シタールとエレギ、音の性格が正反対の弦楽器を合わせることで、紡ぎ出すフレーズが立体的かつ明確になる。これは「目からうろこ」であった。
この捻れギターは聴いたことがある。アバークロンビーである。そして、ドラムは切れ味の良いモーダルなポリリズム。これはデジョネット。そして、重低音を響かせつつ、堅実なフレーズ展開で演奏の底を支えるベース、これはホランド。いや〜、当時のECMレーベルを支えるエレギ+リズム・セクションで、ウォルコットのシタール&タブラを盛り立てる。この優れたバックに恵まれ、このシタールがリーダーの盤は、インド音楽風には決してならない。ジャズに軸足をしっかりと残している。
このシタールの音を初めて聴いた時、ジョージ・ハリソンを思い出した。シタールの音は個性が強烈なので、シタールが鳴ると、その音世界は明らかに「インド音楽風」になる。しかし、このECM盤はそうはならない。ウォルコットはシタールの音を熟知しつつ、ジャズとして成立する様な、エレギとのユニゾン&ハーモニーを前提とした「考慮したフレーズ」を繰り出している。異色盤ではあるが、内容は見事。ECMレーベルらしい「こんなアルバムあったんや」盤である。
東日本大震災から7年4ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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