フリードマンの魅力を再認識
ジャズの世界は、21世紀に入って、若手もどんどんレビューしてくるのだが、意外とベテラン勢も健闘している。この辺がジャズの面白いところで、若くて勢いがあれば良いという単純なものでは無い。年齢を重ねての「味」や「深み」もジャズにとって重要な要素で、かなりの年齢を重ねたベテランも、モチベーションとテクニック次第で十分に活躍できるのだ。
ドン・フリードマン(Don Friedman)。もそんなベテランの一人である。1962年録音の『Circle Waltz』だけが、突出して代表作として紹介されるピアニストである。個性の基本は「ビル・エヴァンス」。評論家筋からはエヴァンス派の一人で、エヴァンスと瓜二つな個性とされるが、フリードマンのピアノはエヴァンスの耽美的で流麗なタッチの部分だけをピックアップしたもので、エヴァンスの単なるコピーでは無い、と僕は評価している。
但し、エヴァンスの潜在的資質であるバップ・ピアノの部分、いわゆるバリバリ弾きまくる部分がフリードマンには希薄なので、耽美的で流麗なタッチが中心の中で、どこまで演奏にメリハリを付けるか、という部分がポイントになる。この部分が疎かになると、フリードマンのリーダー作は一気に「地味な」パフォーマンスになってしまう。
Don Friedman『Prism』(写真左)。1997年7月、ミラノでの録音。2008年のリリース。ちなみにパーソネルは、Don Freidman (p), Marco Ricci (b), Stefano Bagoli (ds)。イタリア人リズム陣と吹き込んだピアノ・トリオ作品になる。ホールで演奏しているかのような、余韻を残した澄んだ音色が心地よく、欧州の録音やなあ、と感心する。
21世紀に入って、活発な活動が頼もしいフリードマンであったが、従来の耽美的で流麗なタッチに加えて、力強いタッチを織り交ぜる様になり、以前よりプレイにメリハリが付いていて、アルバム全編に渡って緩むことは無い。逆に、柔軟でタイトなイタリア人リズム隊を得て、硬軟自在にアドリブ・フレーズを展開する。
フリードマンは、1935年生まれなので、この盤の録音時は62歳。脂がのりきった大ベテランの域に達した年齢。その年齢と経験を活かした、充実感溢れるピアノ・トリオのパフォーマンスは見事である。そして、この盤を録音した19年後、2016年に81歳で永眠する。忘れかけていたフリードマンの魅力を再認識させてくれた、今回のこの1997年録音のリリースの意義は大きい。
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