« 長く付き合う事が出来る好盤 | トップページ | ピアノ・トリオの代表的名盤・70 »

2018年6月13日 (水曜日)

パーランの個性を体感する

ホレス・パーラン(Horace Parlan)のピアノは難物だった。そもそも、聴く前に、知識として彼のバイオグラフィーを読んだのがいけなかった。少年時代にポリオを患い、そのために部分的に右手が変形したお陰で、独特の奏法を身につけた、とあった。彼のピアノは、右手の薬指と小指が動かないゆえに編み出された独自の奏法で弾かれている。

この痕跡を彼のアルバムの演奏から、感じ取ろうとしたのだから「いけない」。もともと、パーランは、右手の変形を悟られない様な奏法を身につけて、一流ジャズメンとなった訳で、駆け出しのジャズ者の僕がちょっと聴くだけで判るはずが無い。彼のアルバムを聴く度に、それが判らなくては、暫くパーランを聴かないという、無意味な繰り返しが長く続いた。

ジャズを聴き始めて、20年ほど経って、やっとパーランのピアノの個性が聴き取れるようになった。ブロック・コード弾きでグイグイ押しまくる。短い連続フレーズを間を取りながら繋げる独特のアドリブ・フレーズ。右手のリズム・タッチのドライヴ感。これら、パーランの個性の全てが、右手が変形したお陰で身につけた、彼ならではの個性なのだ。

Horace Parlan『Headin' South』(写真左)。1960年12月6日の録音。BNの4062番。ちなみにパーソネルは、Horace Parlan (p), George Tucker (b). Al Harewood (ds), Ray Barretto (congas)。当時、パーランのレギュラー・トリオにバレットのコンガは入る、変則ピアノ・トリオである。このコンガの参入がこの盤を、パーランのリーダー作の中で「特別な存在」に仕立て上げている。
 

Headin_south

 
ブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンは、是が非でもパーランに良いデビューをさせたかったようだ。1960年はパーランのリーダー作デビューの年。ブルーノートから「Movin' & Groovin' 」「Us Three」「Speakin' My Piece」「Headin' South」の4枚のリーダー作がリリースされている。2枚は純粋なピアノ・トリオ。1枚は、2管フロントのクインテット。そして、最後の「Headin' South」がこのコンガ入りの変則ピアノ・トリオ。

パーランは、右手の変形が故、長い流麗なフレーズを弾き続けることはしない。短い連続フレーズを間を取りながら繋げる独特の弾き方。この「間」が時に間延びしたり、もしくは、繰り返されることにより単調になる可能性がある。その右手のシンプルなリズム・タッチの「間」を埋めるように、コンガの音が効果的に音の彩りを添える。躍動感にもつながり、音の厚みにもつながる。

ブロックコードでグイグイ引っ張ることで「骨太なファンクネス」を醸し出し、右手のシンプルなリズム・タッチで「繊細なファンクネス」を撒き散らす。そして、このコンガの音が、パーランのピアノの持つ「黒いファンクネス」を更に増幅する。そう、この『Headin' South』は、パーランのピアノの個性を十分に体感できる好盤なのだ。

アコースティック楽器による、伝統的なリズム・セクションが醸し出す「踊れるジャズ・ファンク」の初期形がこの盤に詰まっている。右手の変形を悟られない様な奏法によって弾かれるピアノは、ブルージーであり、とってもアーシー。この辺りが、右手のハンディがマイナスでは無くプラスに作用するという、いわゆる「ジャズの面白いところ」。パーランに入門盤として、ジャズ者万民にお勧めです。
 
 
 
★東日本大震災から7年3ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
 

« 長く付き合う事が出来る好盤 | トップページ | ピアノ・トリオの代表的名盤・70 »

コメント

突然すみません。
ホレス・パラーンとホレス・シルヴァーがなかなか区別のつかない(笑)ジャズ初級者です。
とても参考になる記事だったのでパーランを聴きながら熟読しておりました。
未熟者ですがパーランサウンドの聞きどころが少しわかった気がしました。
これからも頑張ってください!

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: パーランの個性を体感する:

« 長く付き合う事が出来る好盤 | トップページ | ピアノ・トリオの代表的名盤・70 »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー