日本人によるエレ・マイルス
我々は音楽のプロでは無い。プロでも無い我々が、プロの創り出す音を悪く評することはマナーに反する、と常々自戒している。では、音楽のプロはプロの創り出す音を悪く評しても良いのか。それも違うだろう。プロはプロ同士、相手の成果に対しては敬意を払うべきだろう。悪く評したければ言葉にしなければ良い。相手を悪く評する言葉は決して発信せず、自分の心の中にしまっておけば良い。
僕はこの人が雑誌などで語る、他のジャズメンのアルバムやパフォーマンスをケチョンケチョンにこき下ろす記事を何度も目にし、かなりの嫌悪感を覚え、この人の創作する音楽さえも避けてしまうようになった。歯に衣を着せない物言いは良いのだが、あまりに他のジャズメンを悪く評し過ぎで、それが活字となって残るのだから始末が悪い。
しかし、この盤だけは良く聴いた。菊地雅章『Susto(ススト)』(写真左)。1980年の録音。ちなみにパーソネルは、菊地雅章 (key,synth), 日野皓正 (cor,bolivian flute), Steve Grossman (ss,ts), Dave Liebman (ss,ts,a-fl), Richie Morales (ds), Yahya Sediq (ds), Hassan Jenkins (b), James Mason (g), Marlon Graves (g), Barry Finnerty (g), Alyrio Lima (per), Aiyb Dieng (conga), Sam Morrison (wind driver), Ario Moreira (per), Ed Walsh (synth prog)。しかし、よくこれだけのメンバーを集めたものだ。
この盤の音世界は、一言で言うと「1970年前後のエレ・マイルス=マイルスのエレ・ファンク」である。しかも、エレ・マイルスからファンクネスを抜いて、混沌としたグルーブを再整理し、重量級のリズム&ビートを軽量にし、ジャジーで複雑なフレーズをポップで判り易くした様な音世界。とにかく聴き易い。ジャズ初心者にとっては、本家本元のエレ・マイルスは「聴くと疲れる」。しかし、この盤のライトなエレ・マイルスは聴き易かった。若い頃、ジャズ者初心者の頃、この盤は聴いた。
面白いのは、米国ジャズメンが中心なのにファンクネスが希薄なこと。リズムも軽量級になること。これは日本人リーダーの指示だったのか、それとも日本人リーダーだから、それにジャズメン達が自発的にそのイメージに合わせたのか。しかし、力作ではある。収録された4曲、いずれの出来は良い。特に印象的なのは、リズム&ビートで一気に聴かせる「Circle/Line」、前奏のローズの音が印象的なエレクトリックなレゲエ・ジャズ「Gumbo」。
「Susto(ススト)」 とは、ポルトガル語で”驚き”という意味。今の耳で聴いても、1980年にこういうエレ・マイルスの再構築イメージの好盤が日本人の手で創作されていたとは素晴らしいことである。アルバム全体に心地良い迫力とテンションがあって、それでいてスッキリとしてポップ。ちなみに、菊地雅章が、Fender Rhodes Pianoを弾きまくっているアルバムとしては、この『Susto』が最後の作品とのこと。この盤はローズの音を愛でるに適した好盤でもある。
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>プロはプロ同士、相手の成果に対しては敬意を払うべきだろう。悪く評したければ言葉にしなければ良い。
同感ですね。^^が、一方で、ある時期のSJ誌ではプロミュージシャンをレコード評に起用していましたが、私の印象では敬意を払い過ぎて「贔屓の引き倒し」のような印象も受けておりました。
またプーさんは「自分のことを書かれた記事なんて気にしないので読まない」とのことでしたが、ある対談記事を読んでいて(・・そのわりには自分の事を書かれた記事に詳しいでわないか・・)と意外に思ったことでした。笑
投稿: おっちゃん | 2017年12月29日 (金曜日) 18時05分
こんばんは、おっちゃんさん。松和のマスターです。
SJ誌のプロ・ミュージシャンのレコード評、私にも覚えがあります。確かにそうでしたね。やたら褒めまくって、読んでいて、ちょっと白けたのを覚えています(笑)。
それから、プーさんのこと。思わず、私も思い出して、ついつい吹き出してしまいました。そうでしたね。「自分のことを書かれた記事なんて気にしないので読まない」なんて言いながら、その割に、自分のことを書いた記事のこと、よく知っているんですよね(笑)。正直な人やなあ、と呆れたのを思い出しました。プーさんも人間でした。
投稿: 松和のマスター | 2017年12月29日 (金曜日) 21時57分