ピアノ・トリオの代表的名盤・64
ジャズ者の中で「そのジャズメンの絶頂期」の演奏しか聴かない、という方がいる。絶頂期のプレイこそがそのジャズメンの一番優れている演奏で、それ以外は「絶頂期に比べて劣る」演奏だから聴かないという。そもそも、素人と我々が何を持って、そのジャズメンの「絶頂期」を認定するのか、合点がいかぬ。
いわゆる、そのジャズメンの若かりし頃、若しくは歳を取って老いた頃の演奏は成熟していない、若しくは衰えた演奏なので、全く取るに足らない、ということになる。まあ、それはそれで1つの考え方なんだろうけど、僕は同意しかねるなあ。ジャズメンの若かりし頃、年老いた頃にも、それぞれに個性と良さがあると思っているので、僕はそのジャズメンの演奏人生の全てを聴くようにしている。
Barry Harrys『Barry Harrys In Spain』(写真左)。1991年12月5日、マドリッドでの録音。ちなみにパーソネルは、Barry Harris (p), Chuck Israels (b), Leroy Williams (ds)。リーダーのバリー・ハリスは、1929年生まれだから、62歳の時の演奏になる。リロイ・ウィリアムス、チャック・イスラエルのサポートが目を惹く。このピアノ・トリオ、絶対良いよ、と直感する。
バリー・ハリスと言えば、スタイルは「バップ・ピアニスト」。ビ・バップの演奏マナーをハードバップに活かした演奏が個性で、テクニック溢れる流麗な指捌きと簡潔なアドリブ・フレーズが個性。そういう意味では、絶頂期は『Barry Harris at the Jazz Workshop』の頃、1960年辺りになる。
それではこの1991年、62歳でのパフォーマンス、『Barry Harrys In Spain』は取るに足らない盤なんだろうか。否、この1991年の『Barry Harrys In Spain』でのバリー・ハリスのパフォーマンスは、31歳の頃、1960年の絶頂期に匹敵する内容の濃さである。もちろん、1960年の頃に比べれば、指捌きやアドリブ・フレーズの閃きは劣る。しかし、それでも、この1991年の音は豊かで深い。
しかも、1960年の頃は優れたバップ・ピアニストだったハリスが、この盤ではモードな演奏にも手を染め、1960年の頃に比べて、個性の裾野が広がっている。これを「指捌きやアドリブ・フレーズの閃き」が絶頂期と比較して劣るから、と切り捨てるか。それはあまりに短絡的だろう。この盤でのバリー・ハリスのピアノは絶頂期に比べて豊かで深い。
バップ・ピアニストのハリスが 、ウェイン・ショーター作の「Sweet Pea」を演奏するなんて、思ってもみなかった。ここでは、バップ・ピアニストのハリスがモーダルなフレーズを難なく弾きこなしている。しかも、音の表現に深みがある。これは歳を取り、様々な経験を積むことにより獲得した「奥の深い」深みなんだろう。
良いピアノ・トリオ盤です。チャック・イスラエルのベース音が素敵に響き渡り、リロイ・ウィリアムスのアグレッシブなドラミングが演奏全体をグイグイ引っ張ります。晩年のハリスの演奏は絶頂期の頃と比較して、負けず劣らず「深み」のある演奏が個性です。これはこれで正統なハリスの演奏。晩年には晩年の良さがあります。
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