至極納得「シルキー・ヴォイス」
ジャズを聴き始めた時、ジャズはインストに限る、としたため、ジャズ・ボーカルは一番後回しになった。というか、オーソドックスな正調ジャズ・ボーカルは、その唄い方がどうにも苦手で、ジャズ者初心者の頃、明らかに敬遠した。
今でも、オーソドックスな正調ジャズ・ボーカルは苦手である。力強く、こぶしを回しつつ唄い上げる。これがどうにも苦手である。ということで、僕のジャズ・ボーカルの趣味は「異端」である。おおよそ、ジャズ・ボーカルを理解しているとは言えないのでは無いか。ジャズ者ベテランのボーカル好きの方々からはお叱りを受けることもある。
それでも、男性ボーカルはまだ聴く方だ。フランク・シナトラとか、メル・トーメなどは、たまに思い出したように聴く。シナトラやトーメはオーソドックスな正調ジャズ・ボーカルでありながら、ポップでクロスオーバーなところが「聴き易さ」のポイント。このポイントがあるから、僕はシナトラ、トーメを聴くことができる。
さて、一時期の厳寒な日々が一瞬緩んだ今日、突然、思い出したようにメル・トーメを聴く。久し振りにこの盤を選択。Mel Torme and Friends『Recorded Live At Marty's, New York City』(写真左)。1981年の作品。洒落たイラストのトーメが可愛い印象的なジャケット。このジャケットを見る限り、きっと内容は良い筈である。
発売時は2枚組のLPだった。当時、僕はまだ学生。苦手なジャズ・ボーカルのLP2枚組に投資する余裕は無かった。が、有り難いことに、例の「秘密の喫茶店」にこのメル・トーメの2枚組LPはあった。早速、かけてもらった。そして、この男性ボーカルは大丈夫だ、と思った。
メル・トーメは、オーソドックスな正調ジャズ・ボーカルでありながら、ポップで柔らかでライトなところが個性。シルキー・ヴォイスと形容される滑らかな歌唱。適度にエッジが丸いボーカルが特徴で、スタンダード曲ではポップで明るい曲がピッタリ。スインギーな歌唱ではあるが、ジャジーなスイング感というよりは、ポップス・ソングなスイング感と形容したほうが良いか、と思う位の軽やかなスイング感。
そして、このLP2枚組の僕のお目当ては、2曲目の「New York State Of Mind」。米国ポップ・ロックの雄、ビリー・ジョエルの名曲、ニューヨーク讃歌である。もともと僕は、この曲についてはビリー・ジョエルのオリジナルが大好き。この曲は歌が上手く、情感を込めて唄える歌い手にしか扱えない、珠玉の名バラード。そんな難曲をいとも容易くメル・トーメは唄い上げていく。
メル・トーメは1925年生まれなので、このライブ盤を録音した頃は55〜6歳である。ボーカリストとしても人としても一番充実した時期である。他の楽曲についてもメル・トーメのボーカルは絶好調。メル・トーメの代表作の一枚であろう。ジャズ者初心者からジャズ・ボーカル者ベテランの方々まで、広くお勧め出来る男性ボーカル盤である。
震災から5年10ヶ月。決して忘れない。まだ5年10ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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