ハード・バップ時代のバリサク
寒い。朝、雪になるとは思わんかった、我が千葉県北西部地方。昼から晴れるなんて予報だったが、これが全く晴れない。午後から、雪が酷くなったりする東京は高田馬場。そして、夕方からグッと冷え込んで、これってどう考えたって11月終わりの気候では無い。東京都心では気象観測を始めた1875年以来、初めて11月に積雪が確認されたとのこと。
そんな寒い寒い、雪のバンバン降る日には、温々の部屋で熱いブラック珈琲でも飲みながら、ジャズをじっくり聴くに限る。決して、外に出てはいけない。絶対に身体に悪い(笑)。そして、こういう日には通常聴くよりも、ちょっと捻った楽器の、ちょっと捻ったアルバムが聴きたくなる。
ちょっと捻った楽器と言えば、最近は「バリサク」である。バリサク=バリトン・サックス。低音域をベースとするサックス。調性は変ホ(E♭)調で、実音は記譜より1オクターヴと長6度低く、アルトよりも1オクターヴ低い。音量が上がると、サックスのブラスがブリブリっと低音を響かせる。これが良い。これが快感のバリサクである。
ジャズでバリサク、と言われれば、僕はまず「ペッパー・アダムス(Pepper Adams)」を想起する。米国出身の1930年生まれ。1986年、56歳の若さで亡くなっている。ハード・バップ時代のバリサクと言えば「ペッパー・アダムス」と言われるほど、リーダー作を始め、名立たる多くのジャズメンと共演を果たしている。
しかも、このペッパー・アダムス、リーダー盤でもサイドメンとしての参加盤でも安定した水準以上の演奏ばかりである。加えて、リーダー盤に駄作が無い。水準以上のアルバムばかりで、どのリーダー作を聴いても、バリサク・ジャズの良いところが体感できる。地味な楽器ながら、高度なテクニックで、テナーやアルトの様に滑らかに旋律を吹き回していく。爽快である。
そんなペッパー・アダムスのリーダー盤から、きょうはこの盤を聴く。Pepper Adams『Critics' Choice』(写真左)。1957年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Lee Katzman (tp), Pepper Adams (bs). Jimmy Rowles (p), Doug Watkins (b), Mel Lewis (ds)。サイドメンを見渡せば判るが、米国西海岸はロスでの録音になる。
全6曲。何の変哲も無い、歴史的名盤でも無い、ジャケットも地味の一言というかチープ。でも、この盤の内容は、ミスター・バリサク=ペッパー・アダムスを愛でるに最適なアルバムの一枚ではある。バックのサイドメンの演奏が適度に穏やかで、ペッパー・アダムスの重低音バリサクのアドリブ・フレーズを十分に惹き立てている。
そして、ロスで録音されたとは言え、演奏全体の雰囲気が思いっきり「ハードバップ」。しかし、米国西海岸で録音された音なだけに、東海岸のハードバップに比べて、この盤に詰まっているハードバップは適度に軽い。趣味の良い軽快さとでも形容しようか。軽快感溢れる「ハードバップ」。そこにペッパー・アダムスのバリサクが「ブリブリッ」。これがたまらない。
何の変哲も無い、ジャズ盤紹介本でもなかなか採り上げられることの無いアルバムなんですが、実はこれが良い。ジャズ鑑賞の面白さですね。ジャズ本に頼らず、自分の手と耳で選んだアルバムが「当たり」だった時、なんだかホンワカした「幸せ」を感じます。ブリブリッなバリサクのペッパー・アダムス。実に魅力的です。
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