ハードバップの萌芽の記録です
小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィスが語ったすべてのこと——マイルス・スピークス』を読んでいる。以前より、ジャズの関連本は一通り目を通すようにしている。ジャズの関連本からは、音を聴くだけでは判らない、そのミュージシャンの背景、考え方が理解出来たり、そのアルバムの内容や時代毎のジャズのトレンドに関する知識などの「情報」を入手することが出来る。
小川隆夫さんのジャズに関する本はどれも読んでいて楽しい。特にマイルスに関するものは、どれもが含蓄に富んでいる。マイルスに関する書籍については、小川さんの著書が一番だ。客観的にマイルスを分析し、ある時は一ファンとしてマイルスを語る。特に、いかなるジャズメンに対しても、リスペクトの念を忘れないところに共感を覚える。
当然、読みながらのBGMは「マイルス」である。今日は久し振りに、Miles Davis『Dig』(写真左)を聴く。1951年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Jackie McLean (as), Sonny Rollins (ts), Walter Bishop, Jr. (p), Tommy Potter (b), Art Blakey (ds)。まだ、マイルスがメンバー固定の自前のバンドを持つ前の頃の録音。
このアルバムに記録されたセッションは「ハードバップの萌芽」を記録したものとされる。1951年と言えば、まだジャズの演奏のトレンドは「ビ・バップ」。ビ・バップは、最初に決まったテーマ部分を演奏した後、コード進行に沿った形でありながらも、自由な即興演奏(アドリブ)を順番に行う形式が主となる。テクニック優先のアドリブ芸を競うことが最優先とされた。
しかし、これでは演奏のメロディーや旋律の展開を楽しめない。いわゆる鑑賞音楽としてアーティステックな切り口を有しつつ、ポップス音楽として、多くの人々にも聴いてもらいたい。そういう欲求を踏まえて、ビ・バップの後を継ぐトレンドとして、ハードバップが定着した。つまりは、ハード・バップにはビ・バップの自由さとリズム&ブルースが持つ大衆性の両方が共存しているという訳。
確かにそういう情報を基に、このマイルスの『Dig』を聴くと、なるほどなあ、と思う。1951年言えば、まだジャズのトレンドは「ビ・バップ」。そんな時代背景の中、この『Dig』の演奏は、確かにビ・バップでは無い。ビ・バップよりロングプレイなアドリブ展開の中に、旋律がもたらす雰囲気・味わいをしっかり織り込もうとしていることが良く判る。
ビ・バップよりも音数を少なくして、旋律がもたらす雰囲気・味わいを感じ取れる様にしつつ、テクニックは高度なものを要求するフレーズを紡ぎ出す。いきおいアドリブ部の演奏の長さは長くなる。そのロングプレイの中で、芸術性溢れるフレーズを展開為なければならない。テクニックと音楽の知識をしっかり持ったジャズメンでないと太刀打ち出来ない。
この『Dig』の演奏では、そんなハードバップのコンセプトを一生懸命に「実験」しているジャズメン達の様子がしっかりと記録されている様に感じる。なるほど、このアルバムに記録されたセッションが「ハードバップの萌芽」を記録したものとされる所以である。
さすがは「ジャズの革新性」を重んじるマイルス。既に1951年にして、ハードバップなコンセプトにチャレンジしている。もう一つのハードバップの萌芽の記録とされる、ブルーノートの名盤『A Night at Birdland』のライブ録音が1954年だから、如何にマイルスが先進性に優れていたか、が良く判る。僕はそういうマイルスが大好きだ。
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