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2016年7月25日 (月曜日)

音楽喫茶『松和』の昼下がり・35

ジョン・コルトレーンが亡くなったのは1967年7月。コルトレーンが鬼籍に入って以降、世界のジャズ者の間では「コルトレーンのテナーは絶対」とされた。

特に、我が国での「コルトレーン崇拝」の度合いは高く、1967年以降、新人で出てくるテナーマンは、コルトレーンの様に吹かないと「駄目なテナー」とされた。逆に、コルトレーンの様に吹くと「コルトレーンのレベルにはなれない」と揶揄された。ほんま、どないせいっちゅうんや(笑)。

1970年代、テナーというテナーは全てコルトレーンと比較された。そして、コルトレーンほどでは無い、と評価を下され、やっぱりコルトレーンは偉大だ、という結論に落ち着く評論ばかりが目に付いた時代があったなあ。ジャズを聴き始めた1970年代後半、ジャズ者初心者の僕達はあまりそういう評価は気にはしなかったのだが・・・。

このアルバムはそんな時代にリリースされた、実に内容のあるバラード集である。Chico Freeman『Spirit Sensitive』(写真左)。最初、我が国ではPaddle Wheelレーベル(キング)のLPで出た。1979年のことであったと記憶する。ちなみにパーソネルは、Chico Freeman (ts, ss), Cecil McBee (b), John Hicks (p), Billy Hart, Famoudou Don Moye (ds)。

チコ・フリーマンは、1949年7月生まれなので、この『Spirit Sensitive』を録音した時はまだ30歳。ジャズで言えば、バリバリの若手である。その若さでこんな落ち着いた内容のバラード集を出すなんて、チコってなんて老成しているんだろうか。

チコのテナー、ソプラノの音色、吹き回しは明らかに「コルトレーン」。スーッと真っ直ぐに伸びるテナーのフレーズは明らかに「コルトレーン」。聴けば聴くほど、明らかに「コルトレーン」。このアルバムを聴いていると、思わずコルトレーンの『バラード』を想起する。それほどまでにコルトレーンのスタイルを踏襲している。
 

Spirit_sensitive1

  
ピアノのヒックスは明らかに「マッコイ・タイナー」なピアノを弾く。ガーンゴーンというタッチの強さを単純に踏襲していないところがヒックスの良さ。マッコイよりも流麗なアドリブ・フレーズが秀逸。しかしながら、このピアノの音にエコーがタップリかかっていて、これがムード・ジャズっぽい雰囲気を醸し出していて「惜しい」。もうちょっとデッドに録って欲しかった。

ドラムのビリー・ハートは明らかに「エルヴィン・ジョーンズ」なドラミング。エルヴィンよりも繊細なブラッシュワークが心地良い。絶対に前へ出ない、出しゃばらない品行方正なドラミングは本当に趣味が良い。

セシル・マクビーのベースだけが、コルトレーン・カルテットを追いかけていない。アドリブ・フレーズ、ピチカートの音、どれをとっても、当時の「新しい響き」。このマクビーのベースラインが良いアクセントになっている。このマクビーのベースラインを追いかけていると、このアルバムは1970年代のハードバップなんだということを実感する。

演奏全体にエコーがタップリかかっているところが玉に瑕ではあるが、演奏全体の雰囲気、演奏全体のテクニック、どれをとっても優秀である。あまりにコルトレーンのカルテットに似ているところは時代が時代だけに仕方が無い。それを割り引いても、チコ・フリーマンのテナーの演奏は味わい深いものがある。

ジャズ喫茶の昼下がりに、それとなくそっと流していたい、そんな落ち着きのある、品の良いバラード集である。こういうアルバムがひっそりと転がっていたりするから、ジャズのアルバム蒐集は止められない。

 
 

震災から5年4ヶ月。決して忘れない。まだ5年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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