聴いていて馴染み易く聴き易い
ジャズ者の初心者向け盤と紹介されて飛びついて、聴いてみて「あれれ」と思ってしまった盤は沢山ある。恐らく、当時の評論家筋が「ジャズを聴くんなら、これは聴いておかないと」という、大学で言う「一般教養科目」的な印象で選盤したイメージがある。ジャズ者初心者にとって、馴染み易いか聴き易いか、なんていう観点は二の次である。無責任と言えば無責任である。
僕にとっては、Dexter Gordon(デクスター・ゴードン、愛称デックス)がそういう存在だった。デックスの「初心者向け盤」を選んでは聴くんだが、どうにも最初は取っつき難かった。やはり、初心者にとって判り易いテナーは、ジョン・コルトレーンであり、ソニー・ロリンズなのだ。
例えばこの盤。Dexter Gordon『Go!』(写真左)。1962年8月の録音。ブルーノートの4112番。ちなみにパーソネルは、Dexter Gordon (ts), Sonny Clark (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。デックスのワン・ホーン・カルテットである。
デックスだけが1923年生まれで、他のメンバーよりも8〜16歳も年長である。所謂「世代が違う」。録音された年、1962年はハードバップの全盛時代が過ぎて、モード・ジャズやファンキー・ジャズなど、ジャズのスタイルの多様化が進んだ時代。新しい響きやコンセプトのアルバムがバンバン出ていた頃である。
そういう意味では、このデックスのワン・ホーン・カルテットのバックのピアノ・トリオ、所謂リズム・セクションが、ハードバップ期のそれよりも新しい響きを宿しているのは、ジャズ者初心者の僕でも良く判った。シンプルでスッとしていてモダン。小粋なファンクネスが音の底に流れ、リズム&ビートが、そこはなとなくポリリズミック。
それに引き替え、デックスのテナーは「超然」としている。スタイルは独特の個性。デックスのスタイル、デックスの音である。ハードバップとかビ・バップとか、ジャズのトレンドとは全く無縁。そのブロウは大らかで豪快。ピッチは少し外れていて、上手いんだか下手なんだか判らない。でもずっと聴いていると、やはり「上手い」。
そして、デックスはテーマもアドリブも「人が唄う様に」サックスを吹く。テクニックを優先する訳でも無い。リリカルを意識して理知的に吹くのでも無い。自分の感覚そのままに「人が唄う様に」サックスを吹く。ジャズ者初心者の僕にとって、これがデックスの魅力というのが判らなかったのだから困ったものだ。
そんなデックスの魅力が理解出来る様になったのはつい10年ほど前から。この『Go!』などは愛聴盤の筆頭である。よく評論で書かれる冒頭の「Cheese Cake」であるが、やはりこの曲は良い。デックスの作曲力の優れたところをとことん実感する。曲も良いが、演奏も良い。デックスのブロウが実に魅力的である。
ジャズ者初心者向けかどうかに関わらず、聴いていて馴染み易く聴き易い、ということは、音楽にとって大切な要素である。そんな基本的なことを改めてじっくりと教えてくれる、そんなデックスの魅力盤である。今更言うのもなんなんですが、やっぱり『Go!』って好盤です。
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