ピアノ・トリオの代表的名盤・52
マッコイ・タイナーの初期のリーダー盤の聴き直し。あと2枚、感想文を書かせていただきたい。あと2枚で、Impulse!レーベル時代のマッコイのリーダー盤の聴き直しが完結する。実は2枚目と6枚目のリーダー盤をまだストックしているのだ。
このリーダー作は初期のマッコイの代表盤と言い切って良いだろう。初リーダー盤『Inception』の次のセカンド盤になる。このセカンド盤も初リーダー盤に次いでトリオでのチャレンジになる。素直に自らのピアノの個性を開花させた、サラリとした爽快感溢れる、若かりしマッコイの傑作である。
そのセカンド盤とは、McCoy Tyner『Reaching Fourth』(写真左)。1962年11月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Henry Grimes (b), Roy Haynes (ds)。ベースのヘンリー・グライムスの名前に「えっ」と思う。後のジャズ盤に名を連ねることが希少なベーシストである。逆に、ドラムのロイ・ヘインズの名前には「おっ」と思う。名盤請負人なドラマーの一人である。
さて、このセカンド盤には、マッコイのピアノの個性が満開である。リーダー盤に聴かれた緊張感もほぐれて、リラックスしながら、ケレン味無く弾きまくるマッコイのピアノは凄い。しかし、マッコイのピアノは、コルトレーンのシーツ・オブ・サウンドをピアノに置き換えたものでは無いことがこのアルバムで良く判る。
どちらかと言えば、現代ジャズの基本スタイルである「ビ・バップ」の高速アドリブ・フレーズをモードに置き換えた様な感じかな。マッコイのピアノの基本は明らかに「モード」であり、伝統に根ざした「ハードバップ」である。ただ、高速に弾きまくるのでは無い。柔らかいフレーズの展開と、切れ味の良さと相対する「甘さ」を仄かに感じさせるところがニクイ。
バックを勤める二人、ドラムのロイ・ヘインズ、ベースのヘンリー・グライムス。この二人の貢献も特筆に値する。あまり録音の多く無い、どちらかと言えば無名に近い、ベースのグライムスが良い。多弁なマッコイの右手に絡む、グライムスのメロディアスにうねるようなベースライン。このベースラインがマッコイのピアノに推進力を与えている。
ヘインズのドラミングも特筆に値する。多彩なスティック捌きで、ポリリズムとはちょっと異なる響きを供給する。これが、トリオ全体のビートをガッチリと支え、落ち着きを与えている。良きテンションを与えてくれるドラミング。バップ出身のドラマーなのに、この柔軟性と適応力はどうだ。
理屈っぽく弾き回したり、コルトレーンの影を追い回したりしない、モーダルなピアノを爽やかに弾きまくるマッコイは良い。このリーダー作2枚目で、マッコイのピアノの個性は確立されていた、と思って良いだろう。マッコイのピアノを知るにはマスト・アイテム。ピアノ・トリオの代表的名盤としてもお勧め出来る好盤である。
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私にとってモードジャズといえばこのリーチングフォースというくらい、マスターに完全に同感であります。^^
ちなみにドラムのステックでロイへインズモデルというのがありますが、アートブレイキーモデルやスティーブガッドモデルなどに比べて短くて比較的「小技向き」のようで納得したりしますです。
リーチングフォースやコリアのマトリックス(「ナウヒーシングス~」)は私にとって「モードとはなんぞや?」という疑念を、理屈抜き?でわからせてくれた名盤です。
また、トレーンのインパルス盤で、同じ曲でエルビンとロイへインズ盤を聞き比べると、エルビンの「基本は2拍3連の組み合わせスタイル」(手足のコンビネーションなど)がよりわかりやすいかな?なんてね。(~_~;)
投稿: おっちゃん | 2016年4月 6日 (水曜日) 05時16分
どうも、御無沙汰しています。松和のマスターです。
「モードとはなんぞや?」という疑念を、理屈抜きで判らせて
くれた名盤の中で、Chick Corea『Now He Sings, Now He Sobs』
については、私も至極納得です。確かに「Matrix」はそうですね。
加えて、私はMiles Davis『Milestone』を聴いて、モードとは
なんぞや?を感じたことを思い出しました。
モードは理屈で考えるよりも、実際に典型的なモードな演奏を
聴いて体感して掴んだ方が判り易いですね。
投稿: 松和のマスター | 2016年4月 6日 (水曜日) 21時07分