今の耳で聴き返してこそ ・・・
ブルーノートのLTシリーズは、聴き直して見ると実に面白い。ブルーノートの未発表音源を1979〜81年にLP40数タイトルでリリースしたシリーズなんだが、どのアルバムも聴いてみて、「どこがお蔵入りなんや」「どこが気に入らなかったんや」と思ってしまう優秀な音源ばかりなのだ。
Hank Mobley『A Slice of The Top』(写真)。ブルーノートのLT995番。録音は1966年3月。このアルバムもリリースされたのは1979年、マイケル・カスクーナの発掘音源としてである。このアルバムの内容も、LTシリーズの例に漏れず、「どこがお蔵入りなんや」「どこが気に入らなかったんや」と思ってしまう優秀な音源。
パーソネルを見渡すと面白い。Hank Mobley (ts), Kiane Zawadi (euphonium), Howard Johnson (tuba), James Spaulding (as, fl), Lee Morgan (tp), McCoy Tyner (p), Bob Cranshaw (b), Billy Higgins (ds), Duke Pearson (arr)。ユーフォニアムやチューバとか、おおよそジャズには不似合いな管楽器が参加している。
フロントに5管を配したデューク・ピアソンのアレンジによるオクテット編成(8人編成)の作品。ユーフォニアムやチューバが入っているので、ユニゾン&ハーモニーの音が多彩で豊か。アルバムの演奏自体はハードバップなんだが、この多彩で豊かなユニゾン&ハーモニーのお陰で、実に粋でお洒落なジャズに仕上がっている。
個々の楽器を聴いてみても、いずれもそれぞれ素晴らしい演奏を繰り広げている。いつもはちょっと「はにかみ屋で引っ込み思案な」テナーが物足りなく感じるモブレーのテナーが絶好調で吹きまくっている。トランペットのリー・モーガンも溌剌と吹きまくる。ジェームス・スポルディングのアルトとフルートも充実、とにかくユーフォニアムやチューバと併せて、フロントの5人は絶好調。
バックのピアノ・トリオも好調。マッコイ、クランショウ、ヒギンスのトリオなんだが、これがまあ絶好調。マッコイはいつもの様にガーンゴーンとハンマー打法で太いコードを叩き出し、クランショウのベースはブンブン唸り、ヒギンスのドラムはモダンなリズム&ビートを紡ぎ出す。実に好調なリズム・セクション。
この未発表音源、もともとは4241番としてリリースされるはずだったものを含んでおり、そういう意味では確かに優れた内容の音源なのだ。リーダーのハンク・モブレー自身がこのアルバムが未発表になっていたことを非常に悔やんでいたそうで、その想いは十分に理解できます。
ただ今の耳で聴き返せば、というシチュエーションでの話で、1966年という当時としては、ハードバップという古いコンセプトの演奏に終始しており、モーダルな演奏も見え隠れはすれど、温和しめの小規模なモード演奏に留まっているところがちょっとなあ、という感じです。1966年当時としては、ユーフォニアムやチューバが入っている、多彩で豊かなユニゾン&ハーモニーを評価するには時代が若過ぎたとも感じます。
今の時代に今の耳で聴き返してこそ、このアルバムの良さがしっかり感じ取れるのではないでしょうか。このアルバムやLTシリーズの諸作を聴いていて、そういうジャズもあるんやなあ、とつくづく感じました。ジャズって奥が深いですね〜。リーダーのハンク・モブレーも溜飲が下がったことでしょう。
震災から4年11ヶ月。決して忘れない。まだ4年11ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
« カシオペア・サウンドの基準 『Make Up City』 | トップページ | 音楽喫茶『松和』の昼下がり・32 »
« カシオペア・サウンドの基準 『Make Up City』 | トップページ | 音楽喫茶『松和』の昼下がり・32 »
コメント