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2016年1月16日 (土曜日)

久々にベーシストのリーダー盤

ベーシストがリーダーのアルバムが面白くて、結構、昔から時々、集中して聴いている。そもそもベースはソロ楽器(トランペットやサックスなど)とは違い、リズムセクションの重要なパートを担う楽器ゆえ、その演奏上の特長が現れにくい楽器である。それ故、ベース奏者のリーダー・アルバムは、そのコンセプトを打ち出しにくく、その数が非常に少ない。

それでもベーシストがリーダーのアルバムには2つの傾向がある。ひとつは、ベースの演奏自体が非常に特徴的な場合は、その特徴的な演奏内容を全面に押し出したスタイル。もうひとつは、ベーシストが卓越した作曲能力、編曲能力を有する場合で、この作曲能力、編曲能力にスポットを当てて、リーダー・アルバムを演出するケースである。ただ、どちらもグループ・サウンズとして、バランスを欠いたケースがほとんどで、純粋なベーシストとしてのリーダー作とは言い難い。

僕が思うに、理想的なのは、ジャズ演奏の中での理想的なベースの役割、ベースの音色、そしてそのテクニックを、グループ・サウンズを通じて演出するやり方です。ジャズ演奏におけるベースの役割の明確化と理想的なベースの演奏モデルの提示。これが本来のベーシストがリーダーを張る、リーダー・アルバムのあるべき姿だと思います。

ということで、久々に「ベーシストのリーダー盤」として選んだアルバムがこれ。Eddie Gomez『Palermo』(写真左)。2007年のリリース。ちなみにパーソネルは、Stefan Karlsson (p), Eddie Gomez (b), Nasheet Waits (ds)。jazz eyes というイタリアはシチリア島の都市,パレルモにオフィスを構える新興レーベルからのリリース。

ベースのエディ・ゴメスをリーダーに、ピアノのステファン・カールソンとドラムのナシート・ウェイツという強力メンバーが参加した人気盤である。このアルバムから、現代の理想的なピアノ・トリオの演奏を聴くことが出来ます。モードを加えたネオ・ハードバップ的な演奏内容は、四文字熟語に喩えると「温故知新」。

印象派な、リリカルでロマンティシズム溢れるピアノ、そこに自由度高く絡みつつ、ベースラインを支えるベース。自由度高く絡み合うピアノとベースに対して、リズム&ビートをしっかりと供給し支えるドラム。1960年代半ば、ビル・エバンス・トリオが提示した、当時、新しかったトリオの形態だが、今回のトリオ演奏はその形態を踏襲している。
 

Eddie_gomez_palermo

 
それでも、音の雰囲気、アドリブ・フレーズのラインは1960年代当時とは全く異なる。モーダルな響き、自由度の高さ、リズム&ビートのバリエーション、どれをとっても現代のもの。

リーダーでベーシストのゴメスについては、1960年代からのレジェンドなので、その演奏内容、演奏スタイルは基本的に変わらないですが、ピアノとドラムについては、ゴメスと比べてさすがに世代の違いを感じる。

ドラムのウェイツは1971年生まれ、ピアノのカールソンは1965年生まれ。エディ・ゴメスが1944年。なるほど、リーダーでベーシストのゴメスと残りの二人とは親子ほど年が異なる。この組合せの妙がこのアルバムの新しい響きを生み出しているのだ。

ビル・エバンスとは異なる、リリカルでロマンティシズム溢れるピアノ。その響き、雰囲気はチック・コリアやリッチー・バイラークの流れを感じる。ドラミングは明らかにポリリズミック。自由度が高く、モードからメインストリームまで幅広い演奏トレンドに適用するモダンなドラミング。

そこに1960年代から変わらないゴメスのベースが被る。スタイルは変わらないのに、様々な演奏トレンドに適用する柔軟なベース。間の取り方からアドリブ・フレーズの展開の仕方を変えることで、様々な演奏スタイルに適用する。ジャズ演奏におけるベースの役割の明確化と理想的なベースの演奏モデルの提示。

シチリア島のパレルモからのジャズの音。爽やかで陽光うららかなピアノの音が眩しい、なかなかの好盤だと思います。このトリオ演奏、三人三様、魅力ある演奏力で、現代のピアノ・トリオの音を聴かせてくれる好盤です。

 
 

震災から4年10ヶ月。決して忘れない。まだ4年10ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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