ペッパー者に一聴の価値あり
今週の「聴き始め」週間は、図らずも「アルト・サックス」週間となりつつある。初日、リー・コニッツから始まって、フィル・ウッズと来た。で、私、バーチャル音楽喫茶『松和』のマスターとしては、次はお気に入りの「アート・ペッパー」で行きたい。
僕はアート・ペッパーが好きだ。流麗なテクニック、硬軟併せ持った柔軟性の高いブロウ、フリーからメインストリームまで適用範囲の広いスタイル。今を去ること40年ほど前、ジャズを聴き始めた頃、奇跡のカムバックを遂げた後のペッパーがお気に入りになった。
ということで、僕はペッパーについては、1978年に『Among Friends』を聴いて以降、少しずつ彼の歴史を遡っていった。いわゆる「瑞々しい生け花の様な」アドリブ・ラインと喩えられる1950年代中心の「前半のペッパー」については「後半のペッパー」の後に経験しているので、どちらが優れているか、というジャズ界における定番の議論については全く興味が無い。
さて、そんなアート・ペッパーの未発表ライブ音源が昨年リリースされている。Art Pepper『Live At Fat Tuesday's』(写真左)である。 April 15, 1981年4月15日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Milcho Leviev (p), George Mraz (b), Al Foster (ds)。
アート・ペッパー最晩年(亡くなる1年2か月前)、ニューヨークのクラブ「ファット・チューズデイズ」で披露した会心のパフォーマンスを記録した優れものである。たった5曲、トータル70分の音源なんだが、ここでのペッパーのアルトは充実している。神懸かった天才的なブロウってレベルでは無いんだが、かなり充実していて好調なペッパーのアルトは聴き応えがある。
そして、このライブ盤では、バックのリズム・セクション、Milcho Leviev (p), George Mraz (b), Al Foster (ds)、の3人、ピアノ・トリオの演奏が素晴らしい。
ベースのムラーツ、ドラムのアルの素晴らしさは当然として、このライブ音源では、特にミルチョ・レヴィエフのピアノは良い。レヴィエフは、晩年、ペッパーが最も信頼を寄せたピアニストとされるが、このライブ盤の演奏を聴くと、それも納得の素晴らしさである。
しかしながら、やはり最終的にはペッパーのアルトだろう。この「後半のペッパー」のブロウは、若い頃「前半のペッパー」が確立した、軽やかで切れの良いスタイル(瑞々しい生け花のようなブロウ)をしっかりと維持しつつ、明らかにコルトレーンの影響を受けたであろう、フリーキーでアグレッシヴなブロウを併せ持つもので、やはりこの時期のペッパーは素晴らしい。
スロー・バラードな演奏においても、適度な緊張感を維持しながら、時にエモーショナルに、時に流麗にブロウするペッパーは圧巻です。このライブ盤を聴けば、「前半のペッパー」と「後半のペッパー」と、どちらが優れているか、というジャズ界における定番の議論については全く意味の無いことが判ります。
アルバム・ジャケットは適当にデザインされた様な凡百なものなのが惜しいですが、中身の音源自体は優秀です。特にアート・ペッパーのファン、いわゆる「ペッパー者」にとっては一聴の価値のある好盤と言えるでしょう。
震災から4年9ヶ月。決して忘れない。まだ4年9ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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