ジャズ喫茶で流したい・75 『Among Friends』
僕はペッパーについては、1978年に『再会』を聴いて「ペッパー者」になり、それ以降、少しずつ彼の歴史を遡っていった。つまりは、1974年カムバック後の「後半のペッパー」から経験したことになる。
今まで、いろいろと議論されてきたが、僕が思うには、「後半のペッパー」のブロウは、若い頃「前半のペッパー」が確立した、軽やかで切れの良いスタイル(瑞々しい生け花のようなブロウ)をしっかりと維持しつつ、明らかにコルトレーンの影響を受けたであろう、フリーキーでアグレッシブなブロウを併せ持つもの。
つまり、1950年代の軽やかで切れの良いスタイル、唄う様なアドリブ・フレーズを捨て去ること無く、1974年にカムバック後、フリーキーでアグレッシブなフレーズを加えて、演奏の幅を広げたと解釈しているので、「前半のペッパー」と「後半のペッパー」と、どちらが優れているか、というジャズ界における定番の議論については全く理解出来ない。
さて、僕が「ペッパー者」になる切っ掛けになったアルバム、Art Pepper『Among Friends』(写真)について語ろう。邦題は『再会』。1978年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Russ Freeman (p), Bob Magnusson (b), Frank Butler (ds)。1950年代の「前半のペッパー」の盟友ピアニスト、ラス・フリーマンとの再会セッションである。
ネットでのアルバム紹介のこの文章が、このアルバムの内容の全てを語る。『録音が3カ月以上延びたためか、アートはスタジオに入るなり「この日を待ってたんだ」と気合十分。自ら選んだスタンダードを思う存分に吹きまくっている。録音が進行する中、同行のローリー夫人も「カムバック後の最高傑作になるわよ」と予言した』。
確かにこのアルバムでのペッパーのアルトは良い。余分なものが無い、シンプルにフレーズを吹き上げていく、渋くて落ち着いたブロウが実に「クール」。要所要所の「後半のペッパー」の特徴である、エモーショナルなブロウが顔を出すが、それも演奏全体の流れを損なうことの無い、良いアクセントとして聴かれるべきもの。
このアルバムの「ベサメ・ムーチョ」の再演が「前半のペッパー」と「後半のペッパー」と、どちらが優れているか、というジャズ界における定番の議論を煽るみたいだが、その比較は全く意味が無い。
演奏の背景にあるジャズの時代が違うし、ジャズ演奏のトレンドが違う。「前半のペッパー」の時代には、まだフリーなコルトレーンは存在しなかったし、モード・ジャズは存在しなかった。アドリブ・フレーズの耳当たりの良さと個人的好みだけで「前半のペッパー」と「後半のペッパー」の良し悪しを推し量るのは、あまりに乱暴だ。
とにかく、このアルバムでのペッパーのアルトはとてもクールで、変に捻ったアドリブ・フレーズや大向こうを張った「はったりフレーズ」も無い。唯々、淡々と選曲したスタンダード曲の美しい旋律をトレースし、美しい旋律をベースに、無駄な展開を一切省いた、明快でシンプルなアドリブ・フレーズをふんだんに聴かせてくれる。
良いアルバムです。先にご紹介したローリー夫人の言葉「カムバック後の最高傑作になるわよ」を思い出します。確かに、このアルバムは、カムバック後のペッパーの好盤の一枚ですね。クールでエモーショナルなペッパーのアルトが堪らない。
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