硬派でアートなハンコックです
1960年代から1970年代初頭まで、アルバムで言うと、1973年の『Head Hunters』まで、ハービー・ハンコックの作品はアカデミックで硬派な内容が主流だった。
この『Head Hunters』以降の、ファンキーでキャッチャーなエレ・ハンコック路線の印象が強いので、ハービーはポップなジャズメンという印象になりがちだが、どうして、ハービーの駆け出しから若手の頃のアルバムは、意外とアカデミックでスピリチュアルな内容が主流なのだ。
特に、ハービーの駆け出しから若手の頃のブルーノート・レーベルでのリーダー作はその傾向が強い。ブルーノート・レーベルでの諸作には、必ず一枚に一曲、ファンキーなポップ・チューンが入っていて、その曲の印象があまりに強いので、どうしてもハービーはポップなジャズメンという印象になってしまうのだが、他の曲はバリバリ硬派でアートな内容で占められている。
例えば、このアルバムが代表的な例だろう。Herbie Hancock『Empyrean Isles』(写真左)。1964年6月の録音。ブルーノートの4175番。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Freddie Hubbard (cornet), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。コルネットのハバードが一管のカルテット構成。後のV.S.O.P.クインテットからショーターを引いたカルテットである。
1993年、US3がサンプリングして「アシッド・ジャズ」としてヒットさせた、ファンキー・チューン「Cantaloupe Island」のオリジナル演奏が入っているので、このアルバムはハービーの代表作の一枚として、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌などに必ず紹介される有名盤である。
が、しかしである。この『エンピリアン・アイルズ』の内容は、決して易しい内容では無い。恐らく、ブルーノート・レーベルに残したリーダー作の中でも、一二を争う「硬派でアートでスピリチュアル」な内容なのだ。冒頭の「One Finger Snap」も、テーマのユニゾン&ハーモニーはまだポップでキャッチャーだが、アドリブ部に入ると、パッキパキの難度の高いモーダルなジャズに大変身。
2曲目の「Oliloqui Valley」は徹頭徹尾、モーダルなジャズで終始し、メンバーそれぞれ、あらん限りのテクニックを尽くして、これでもか、という感じでモーダルなフレーズを繰り出す繰り出す。これが、まあ、ジャズ者初心者にとっては何が何だか判らない(笑)。逆に、モード奏法を駆使した「モーダルなジャズ」を体験するには最適な曲のひとつと言える。
3曲目の有名曲「Cantaloupe Island」のファンキーなテーマを聴いてホッとするのもつかの間、アドリブ部に入ると、やっぱり「硬派でアートでスピリチュアル」な内容に大変身。思いっきりアーティスティックで硬派でスピリチュアルなインプロビゼーションが展開される。聴き応え十分だが難解でもある。
そしてラストの「The Egg」。完全にスピリチュアルでフリーなジャズになる。それも間を活かしたモーダルな内容のフリー・ジャズ。間を活かしたセシル・テイラーを聴く様だ。どこまでフリーな演奏が続くのだ、と思って聴いていると、フリーな演奏のまま終わってしまうビターな内容。
このアルバムをジャズ者初心者向けのアルバムとして紹介するのはちょっと問題でしょう。アカデミックで硬派な内容は難解であり、ビターな音世界である。逆に、モーダルなジャズを体感するのには最適、加えて、アコースティック・ハンコックの本質を理解する上で最適な盤だと思います。さすがはブルーノート・レーベルの総帥、アルフレッド・ライオン。貴重な音源を残してくれました。
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