70年代フュージョンの原型
ギターという楽器は繊細な音色を醸し出せるので、ムーディーな旋律表現に向く楽器だ。ジャズの世界でもアグレッシブで攻撃的な表現はあまりしない。趣味良くリズムを刻むか、ムーディーで印象的な旋律を刻む。
1970年代に入ると、ジャズ・ギターはクロスオーバー・ジャズとして、ロックの様なアグレッシブで攻撃的な表現する方向と、イージーリスニング・ジャズとして、ムーディーで印象的な旋律を表現する方向との、大きく分けて2つの方向に分かれていく。
逆に、1960年代は、まだまだ1950年代のハードバップ・ジャズの表現を引き継いで、当時のトレンドだったスタイルであるフリー・ジャズやモーダルなジャズの影響を受けること無く、意外と旧態依然とした表現に終始していた。ムーディーな旋律表現に向くという特徴が仇になった格好である。
1960年代と言えば、まだエレギの発展もまだまだ、当然アタッチメントも無く、ギターの音色は意外とシンプルだった。このシンプルで抑揚表現が苦手だったギターは、フリー・ジャズにもモーダルなジャズにも向かなかった。エレギが楽器として発達し、アタッチメントやアンプが充実して、他の楽器と肩を並べるようになったのである。
1960年代はジャズ・ギター発展にとって「停滞の年代」と思っているんだが、1970年代のイージーリスニング・ジャズとして、ムーディーで印象的な旋律を表現する方向を先取りした様なギタリストがいる。突然変異的な存在で、どうしてこういう方向に走ったのかよく判らないのだが、確かにこのギターは、1970年代のジャズ・ギターのトレンドを先取りしている。
そのアルバムとは、Gabor Szabo『Gypsy '66』(写真左)。冒頭が、The Beatlesの「Yesterday」から始まる。従来のジャズ・ギターらしからぬドライさで、明らかにそれまでのジャズ・ギターの旋律表現と一線を画している。明らかにイージーリスニング・ジャズにピッタリの音であり、弾き方である。
アルバムの収録曲を改めて見渡して見ると、ビートルズやバート・バカラックといったポップチューンを前面に押し出しており、意外と旧態依然とした表現に終始していたジャズ・ギターの世界に一石を投じた。のかどうかは知らないが、確かにこのアルバムのギター表現は当時の他のジャズ・ギターとはかけ離れている。
淡々と反復するリフなどは全くもって個性的。アレンジや旋律表現も新しくて、1970年代にやって来る「フュージョン・ジャズ」の原型とも言える内容に、ちょっとビックリする。特にアレンジが斬新で、今の耳で聴いても、飽きが来ないし、古さを感じさせないところが凄い。
良いアルバムです。当時まだバークリー音楽院留学中だった、若き日の渡辺貞夫(ナベサダさん)がフルートで参加していることでも有名なアルバムです。イージー・リスニングなジャズ、フュージョン・ジャズの好きなジャズ者の方々にお勧めです。「温故知新」の気持ちで聴いてみて下さい。
震災から4年7ヶ月。決して忘れない。まだ4年7ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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