こんなアルバムあったんや・52
ジャズには、スタイルや流行の中心にいなくても、初心者向けのジャズ盤紹介本などに挙がることが無くても、これはっ、という「粋」な内容のアルバムをリリースするジャズメンがいる。
例えば、このジョー・ワイルダー(Joe Wilder)もそんなジャズメンの一人。彼の名前はジャズ史の中でも、なかなかお目にかかることはありません。ワイルダー自身は、昨年、92歳で惜しくも鬼籍に入ってしまいましたが、僕にはこの一枚で、彼の名前をしっかりと記憶に留めています。
そのアルバムとは、Joe Wilder『Wilder 'n' Wilder』(写真左)。名門レーベルSavoy(サボイ)からのリリース。1956年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Wilder (tp), Hank Jones (p), Wendell Marshall (b), Kenny Clarke (ds) 。ジャケットも、サボイの香りが漂う小粋なジャケット。
このアルバム、ジョー・ワイルダーのトランペットを心ゆくまで慈しむことの出来る優れもの。ワイルダーのトランペットは、クラシック出身の独特の癖が心地良い正統派なもの。ブラスの響きよろしくブリリアントな音色。そんなワイルダーのワンホーン作品である。
冒頭の「チェロキー」を聴けば、その魅力は直ぐ判る。いきなりアドリブから入る、熟慮された「不意打ち」。え〜っこれがあの「チェロキー」かと狼狽えていると、ハンク・ジョーンズのピアノがそれと分かる旋律を奏でて、やっとホッと一安心(笑)。この「チェロキー」でのワイルダーのトランペットが一級品。
ビ・バップの様な、テクニックを前面に押し出した疾走感のある速いアドリブ・フレーズや、大向こうを張ったハイノートをひけらかすことも無く、ミドル・テンポを基調に、中音域をメインに、肉声と同じ音域で典雅に唄うように、トランペットをブリリアントに吹き上げています。
どこをとっても、心地良い響き、典雅なフレーズ、清々しい音色。本当に良い音のするトランペットです。加えて、バックのリズム・セクションも優秀。ハンク・ジョーンズの典雅で趣味の良いピアノ、ウエンデル・マーシャルの重心の低い堅実なベース、ケニー・クラークの技ありの切れ味抜群のドラム。
このリズム・セクションがあって、ワイルダーのトランペットが更に映えます。ワイルダーの歌心のあるトランペットと、歌伴の様に、それにそっと寄り添うハンクのピアノ。滋味溢れる職人芸の世界であります。思わず聴き惚れてしまう、見事なインタープレイです。
こんなトランペットのワンホーン盤があったんですね。初めて出会った時、思わず目から鱗。昔、この盤は「幻の名盤」として有名でしたが、最近ではCDでリイシューされて入手し易くなりました。それでも、この盤がジャズ盤の紹介本に挙がることがほとんど無いのが不思議で仕方がありません。とにかく良いですよ。隠れた好盤です。
震災から4年8ヶ月。決して忘れない。まだ4年8ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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