ジャズ喫茶で流したい・67
僕はこの男に注目し続けていた。ジャズ・ヴァイブ奏者のマイク・マイニエリ(Mike Mainieri)。フュージョン・ジャズの伊達男、フュージョン・ジャズの仕掛人。フュージョン・ジャズ全盛期、マイニエリは要所要所で必ず顔を出していた。
ヴァイブの腕前も一流。当時、ヴァイブと言えば、ゲイリー・バートン。このゲイリー・バートンに比肩する、閃く様な、疾走感溢れるアドリブ・プレイが素晴らしい。イマージネーションも豊かで、本気でやれば、恐らく、当時、ナンバーワン・プレイヤーとして、フュージョン界に君臨していたのでは無いか、と思っている。
しかし、マイニエリはフュージョン・ジャズの伊達男、フュージョン・ジャズの仕掛人。本気で演奏することがあまり無かった様に思う。アドリブ・プレイも、どこかでやった印象的なアドリブ・フレーズを、譜面に落としたかのように他のセッションでも展開した。どこかで聴いたことのあるアドリブ・フレーズが良く出てくる。明らかに手を抜いている(笑)。
それでも、プロデュース能力にも秀でたマイニエリは、フュージョンの仕掛人として暗躍した。彼の仕掛人としての最大の成果は「ステップス」。そういう意味で、彼はジャズ・ヴァイブ奏者として、真の活躍をした訳では無かった。それが、僕にとっては苛立ちの素で、彼の才能あるプレイを、今か今かと待ちわびていた。
そして、21世紀になり、マイク・マイニエリの名前も忘れ始めた頃に、このアルバムがリリースされた。Mike Mainieri『Crescent』(写真左)。2010年のリリース。ちなみにパーソネルは、Mike Mainieri (vib), Charlie Mariano (as), Dieter Ilg (b)。ドラムレスのヴァイブ+アルト+ベースという、思いっきり変則なトリオ編成。
演奏内容は完璧な純ジャズ。ドラムレスである故、スピリチュアルで内省的な、限りなくフリーでモーダルな演奏が素晴らしい。収録曲を眺めれば直ぐに判るんだが、このアルバムのテーマは「ジョン・コルトレーン」。コルトレーンを彷彿とさせる演奏の数々。そう言えば、タイトルの「クレッセント」というのも、コルトレーンに同名アルバムがあったなあ。
加えて、アルトのチャーリー・マリアーノが素晴らしい。このアルバムでのプレイが遺作になった訳ですが、そんな晩年のプレイとは思えないほど、素晴らしい、スピリチュアルで色気のあるアルトのブロウを聴かせてくれます。
マイニエリのヴァイブの静謐な響きと、マリアーノのウォームなアルトの音色、そして、リグのベースが生み出す躍動感溢れるリズムが一体となって、実に心地良い演奏の数々が実に魅力的です。
そして、マイニエリの純ジャズでの演奏がとても素晴らしい。やっとマイニエリの才能開花の時が来た、と感じました。マイニエリがヴァイブでコルトレーンをやるなんて。そんな時が来るなんて、フュージョン・ジャズ全盛の頃、1970年代終盤には思ってもみませんでした。
CD2枚組のボリュームですが、飽きること無く、緩むこと無く、一気に聴き通してしまいます。それほど、適度な緊張感と演奏の密度の高さが素晴らしい、21世紀ジャズの好盤の一枚だと思います。お勧めです。
震災から4年6ヶ月。決して忘れない。まだ4年6ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
« マイルスと「ジミヘン」 | トップページ | フュージョンのマイニエリ »
コメント