スティングのジャズ・ロック
1980年代に入ると、フュージョン・ジャズは成熟し、AORへの傾倒を始めて、もはやジャズとは呼べない「ブラコン」なポップスになる一方、ロックとの交流を深めながら、逆にロックに新しいリズム&ビートを導入し、ロックの世界で新たな音の展開を生み出したりした。なるほど、ジャズは懐の深い音楽ジャンルではある。
ジャズがロックに新しいリズム&ビートを導入し、ジャズがロックの世界で新たな音の展開を生み出した例として、僕が良く挙げるのが「スティング(Sting)」。ポリスのベーシストして、ロック界にて一世を風靡し、ソロに転身して、敬愛するジャズのイディオムを大々的に導入。ロックとジャズを融合させた、新たな「スティングとしての音世界」を現出した。
その最初の成果が、Sting『The Dream of the Blue Turtles』(写真左)。邦題『ブルー・タートルの夢』。1985年にリリースされた、スティングのソロ第1作である。これがまあ、ロックにフュージョン・ジャズのイディオムを導入して新たに構築した、新しいロックな音世界である。
バックを固めるパーソネルが凄い。Omar Hakim (ds), Darryl Jones (b), Kenny Kirkland (key), Branford Marsalis (ss, ts)。当時のメインストリーム・ジャズの中堅・精鋭でガッチリと固めている。このバックだけでも、相当に硬派でクールなメンストリーム・ジャズな演奏が繰り広げられる、そんな凄い面子である。
しかし、このバック・バンドをして、そのバックの演奏がメインストリーム・ジャズにならないところが素晴らしい。あくまで、スティングの音楽を前面に押し出し、スティングの音楽を前提に、ジャズのイディオムを導入するにはどうしたらよいか、ということを常に考えながら、それぞれのプレイを進めている。
ちなみにこのバック・バンドの音は「ジャズ」では無い。このアルバムを「ジャズっぽい」と評した評論家が当時大勢いたが、このアルバム、絶対に「ジャズっぽくは無い」。あくまで、リズム&ビートはロックであり、ロックを前提にジャズのイディオムを織り込んで、スティングのボーカル、音世界の個性をいかに際立たせるか、という一点のみを目標に展開されている。
さすがにこれだけの面子が集まってのパフォーマンスである。ロックを前提にしているので、音の雰囲気は硬派でクールなフュージョン・ジャズである。このバックのジャズ者4人で、こんな硬派でクールなフュージョン・ジャズばりばりの音が出るなんて、思ってもみなかった。ジャズ・ミュージシャンの一流どころは凄い
スティングは伸び伸びと自らの個性をボーカルに音作りに曲作りに展開している。まあ、これだけのバック・バンドを従えているのだからねえ。スティングは、この素晴らしいメインストリーム・ジャズなバック・バンドの音を自家薬籠中のものとして、スティングのソロとしての音世界をバッチリ確立している。
今の耳で振り返ると、ジャズがロックに新しいリズム&ビートを導入し、ジャズがロックの世界で新たな音の展開を生み出した例として、このアルバム『ブルー・タートルの夢』は素晴らしい成果である。
スティングのAOR、スティングの大人のロックと表現しても良いと思う。それぞれの曲を見ても、政治的な主張を持った優れた内容の楽曲もあり、アートなロック・アルバムとして傾聴に値するものだと僕は思う。
震災から4年4ヶ月。決して忘れない。まだ4年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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