こんなアルバムあったんや・45
1970年代後半は、電気楽器中心に技術イノベーションが普及し、1970年代前半では、一部のロックバンドやジャズバンドでしか活用されなかった電気楽器がどんどん改良され、その利用シーンは劇的に広まっていった。一言で言うと、楽器での表現形態や表現方式が一気に幅広くなった訳である。
そんな電気楽器イノベーションを切っ掛けに、1970年代後半の日本では、ジャンルを超えた、様々な実験的なセッションが繰り広げられた。もともと、ロックとフュージョンの境目が曖昧な日本の音楽シーンである。このジャンルを超えた、異種格闘技的なセッションがやり易い環境であったとも言える。
そんな異種格闘技的なセッションを捉えてリリースした、印象的なアルバムが幾枚かある。これって、商業的にありなのかなあ、なんて思ってしまう、かなり実験的で意欲的な内容なので、当時の音楽シーンではなかなか理解されない、受け入れられないものだった印象がある。
そんな異種格闘技的な実験的セッションの成果の一枚が、細野晴臣・鈴木茂・山下達郎『Pacific』(写真左)。1978年のリリース。当時の帯紙のキャッチフレーズが、「時代をリードするサウンド・クリエイターたちがアイランド・ミュージックに挑戦した意欲作! 南太平洋にテーマを求め、インストゥルメンタルで綴ったサウンド・イメージ・アルバム」。
思わず苦笑いしてしまうようなキャッチだが、1978年当時としてはこれが精一杯だったのだろう。とにかく、参加メンバーである、細野晴臣(写真右)、鈴木茂、山下達郎、吉田美奈子、坂本龍一等々、という名前を見渡すと、このアルバムは、どんな音世界でまとまっているのか、皆目見当がつかない。
基本は電気楽器を中心としたフュージョン・ミュージックである。ミュージックとしたのは、ジャジーな要素が通常のフュージョン・ジャズと比べると希薄だからである。ロックな要素やアンビエント・ミュージックな要素、勿論、フュージョン・ジャズの要素もしっかり盛り込まれており、後のテクノやハウス、ユーロといった要素も見え隠れする。
このごった煮の音世界が実に興味深い。何を切っ掛けに、これだけのメンバーが、この様なごった煮な、異種格闘技風のセッション・ミュージックに参加し、成果を挙げたのかは判らないが、このアルバムに詰まっている音世界は、後のフュージョン・ミュージック、ロック・ミュージックの展開をみると、かなり先進的なものだったことが良く判る。
リハーサルの時間もあまり満足にはとれなかったのであろう、練習不足感溢れる、ちょっとたどたどしい演奏もあるが、その先進的な内容が故にあまり気にならない。それよりも、そのごった煮の、異種格闘技的な内容の方に興味が向く。このごった煮の、異種格闘技的な内容は、日本人ならではの音世界に他ならないからだ。
様々な音楽要素を取り入れ、リコンバイルし、先進的な音世界を表現し、それをオリジナリティーにまで昇華する。日本人ミュージシャンの最も得意とするところであり、最大の個性でもある。このアルバムにはその萌芽が聴いてとれ、その最初の成果がここにある。
良いアルバムです。ラストの「コズミック・サーフィン」のたどたどしさには苦笑いしてしまいますが、後の日本が世界に誇るYMOのプロトタイプがここにある、と考えると、思わず襟元を正して聴き直してしまいます。しかし、ジャケットは思いっきり「やっつけ」仕事。この異種格闘技的セッションに対する、当時のレコード会社の評価が窺い知れます(笑)。
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