伝統の「個性」は伊達では無い
1980年代、フュージョン・ジャズの衰退に代わって、純ジャズ復古の大号令がかかり、日本では1986年のマウント・フジ・ジャズ・フェスティバルの開催で、純ジャズの復活は確固たるものになった。なんと、第1回はブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンを迎えて始まった。さすがはバブル期のジャズ・フェスティバルである。
それから、である。日本では純ジャズのリイシュー盤や新録盤が出始めて、あっと言う間に純ジャズが復活した。米国ではブルーノート・レーベルが完全復活し、その亜流レーベルで日本のレコード会社主導の「サムシンエルス・レーベル」が立ち上がった。1988年のことである。
新生ブルーノート・レーベルの新作には駄盤が無い。従来のブルーノート・レーベルの伝統を踏襲した、駄盤が無く、ジャズ・シーンをリードする様な好盤揃いであった。ベテラン・ジャズメン達を採用したセッションについても、不思議と生まれ変わった様な演奏を展開したりするから驚きである。
例えば、このアルバムも新生ブルーノート・レーベルからのリリースである。Jackie McLean and McCoy Tyner『It's About Time』(写真左)。1985年4月の録音。ブルーノートのBT 85102番。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Jackie McLean (as), Al Foster (ds), Ron Carter, Marcus Miller (b), Jon Faddis (tp), Steve Thornton (per)。
当時、新進気鋭のベーシスト、マーカス・ミラーの参加が目を惹くが、基本的には往年のベテラン・ジャズメンが大集合である。これでは、ただ、有名なジャズメンを集めただけ、法外なお金を貰いながらも適当な演奏をしてお茶を濁した様な「駄盤」に成り下がる可能性大なのだが、そうはならないのがブルーノート・レーベルである。
確かに、ピアノのマッコイ・タイナーはちょっと問題だ。あまり覇気のある演奏を聴くことは出来ない。加えて、ジョン・ファディスのトランペットは五月蠅いほどに情緒に欠けるのも困りもの。だが、ジャキー・マクリーンのアルトは聴きものだ。アル・フォスターのドラムもメリハリ効いてモダンで良い。ベースのロン・カーターも意外と良い。
アルバム全体の演奏を聴き通すと、意外とモダンで新しいハードバップが展開されているのが良く判る。ジャズメンごとに演奏のレベルにバラツキがあるのは仕方が無い。純ジャズ復古の大号令がかかったとは言え、時は1985年。まだ、純ジャズ復古は確固たるものにはなっていない。メンバーそれぞれに、純ジャズの演奏に臨むモチベーションのバラツキがあっても不思議では無い。
マッコイとファディスは悪くは無いんだが、普通のレベルで終始。しかし、残りのメンバーの演奏が水準以上の優れたレベルなので、アルバム全体の出来は上々。3.5〜4.0星は献上することが出来るレベルの、なかなかの内容のハードバップ盤である。音の響き、ユニゾン&ハーモニーのアレンジ、ジャジー溢れる楽曲、どれもが、往年のブルーノート・レーベルの個性を踏襲している。
冒頭の「Spur of the Moment」を聴くだけで、これはブルーノート・レーベルの音と直ぐに判るほど。そこに旧来のイメージをなぞらえていない、新しいイメージ新しい響きで、マクリーンが吹きまくる。そして、モダンな攻撃的ドラミングでアルがフロント・ラインを鼓舞する。新旧ベースのミラーとロンが音のボトムをガッチリとキープする。
なかなか味のあるハードバップ盤です。決して、1950年代〜1960年代のハードバップの音を踏襲しない、新しいイメージ新しい響きのハードバップを展開しているところが実に頼もしい。う〜ん、さすがはブルーノート・レーベル、伝統の「個性」は伊達では無い。
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