真のポール・マニアの「踏み絵」
僕が「ジョンはええなあ」と呟くと、部室の彼方から「ポールもええよ」。僕が「いやいやジョンやろ」と呟くと「ポールはええよ」。僕が「ジョンがええんや」と呟くと「ポールがええよ」。それでいて「ビートルズのメンバーの中で誰のファンや」と問うと「リンゴのファンや」と言い切る、筋金入りの「ポール・マニア」の映研女子がいた。
どうして、そのとある映研女子が筋金入りの「ポール・マニア」なのか。それは、このアルバムが出た時の、彼女のこのアルバム評がそれを証明している。そのアルバムとは、Paul McCartney & Wings『Wings at Speed of Sound』(写真)。
この『Wings at Speed of Sound』、英国でのリリースが1976年3月。日本では1ヶ月遅れくらいのリリースだったかなあ。当時、僕は高校3年生。高校の部活は2年生の文化祭後に引退するはずなんだが、引退し損なって、まだ部室に出入りしていた。あろうことか、高校2年生の秋の「とある出来事」の反動で、親友とフォーク・デュオを組んで、音楽活動まっしぐら(笑)。部室の一角を借りて、練習に勤しんでいた。
そして、1976年5月中旬の事だったと思う。これがまた不思議なことに、もう引退して久しい、かの映研女子がやってきた。これまたポールのアルバムを抱えてである。なぜやってきたのか、これが全く判らない。が、こちらの存在に気が付くと、『Wings at Speed of Sound』を袋から出して、ドンと置く。
おお『Wings at Speed of Sound』やないか。いや〜実際に見ると、余計にダサイなあ、このジャケット・デザイン。こんなジャケットでリリースOKとしたポールの美的感覚を疑うなあ〜、なんてことをボ〜ッと考えていた。ら、「聴いてんの」と怒られた(笑)。
どんな熱弁を振るっていたのかは判らない。ただ、このPaul McCartney & Wings『Wings at Speed of Sound』は素晴らしい内容やということを熱く語っているらしい。もとより、僕はあまりポールには興味は無い。確かに『Venus And Mars』は素晴らしい内容だ。『Band on the Run』も良い感じ。でも、それはそれ、これはこれ。当時、僕はサザン・ロックと米国西海岸ロックに傾倒していた。
しかし、当方の反応とは関係無しに、この『Wings at Speed of Sound』を放ってよこしながら「これええなあと思わんかったら耳おかしい」。つまり「聴け」ということらしい。ということで、即、その夜、聴いた。カセットにダビングしながら、3回繰り返して聴いた。
で、その感想が「なんじゃ、このアルバムは」。ポール以外のメンバーにも全員それぞれボーカル曲が用意されており、収録曲の半数を占めている。つまり、ワンマンとか独善的とか揶揄されていたポールが、メンバー全員に平等にボーカルを取らせることによって、その悪しき印象を緩和させようと考えた、もしくは、バンド・メンバーの求心力を高めようとした、と思われる。
が、どう聴いても、アルバム全体を通して、トータル・アルバムとして良いとは思えない。俺が曲を用意したよ、みんな平等にボーカルを取って仲良くやろう、と言いながらも、ポール自身がボーカルを取る曲の出来が突出して良い。
特に「Let'em In(幸せのノック)」と「Silly Love Songs(心のラヴ・ソング)」の出来が突出して良い。というか、このアルバムの中で、この2曲しか、印象に残らないのは僕だけか。
みんな平等にボーカルをとったら、アルバム全体の印象はバラバラ。「Wino Junko」と「Time to Hide」はポールの作では無く、これがまたアルバム全体の雰囲気から思いっきり浮いている。なんだか、バンドとしての個性を強調しようとしたら、ポールの才能だけが突出してしまった、という、なんだか「トホホ」な結果になってしまっている、と感じるのは僕だけかなあ。
この『Wings at Speed of Sound』を聴いて、「これええなあと思わんかったら耳おかしい」と言い切るのが、真のポール・マニアなんだろう。僕にはどうしても「これええなあ」とは思えなかった。どころか、Paul McCartney & Wingsも終わりやな、早々に解散するんとちゃうか、とまで思った。これは、当時、かの映研女子には言えなかった。言ったら絶対に怒られる(笑)。
確かに、真のポール・マニアの間では、この『Wings at Speed of Sound』の評価は上々みたい。恐らく、このアルバムは、ポール・マニアにとって「踏み絵」の様なアルバムなのだろう。このアルバムを聴いて「これええなあ」と思えば、真のポール・マニア、「なんじゃこれ」と思ったら、真のポール・マニアでは無い。
でも、「Let'em In(幸せのノック)」と「Silly Love Songs(心のラヴ・ソング)」は今でも凄いなあ、と感心するポールの傑作だと思っています。こんな鉄板の2曲があるのに、なんでトータル・アルバムとして上手くまとまらないのか、これまた「ポールの不思議」である。
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