トニー・ウィリアムスの遺作 『Young at Heart』
トニー・ウィリアムスは、なにもフリー・ジャズだけが十八番では無い。彼のドラミングはオールマイティー。あらゆるジャズの演奏スタイルに適応する。それも相当に高いレベルで、クイックに適応するのだから凄い。
そんな偉大なるジャズ・ドラマー、トニー・ウィリアムスの遺作をご紹介したい。その遺作とは、Tony Williams『Young at Heart』(写真左)。1996年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Williams (ds), Ira Coleman (b), Mulgrew Miller (p)。
このアルバムは17歳でマイルス・クインテットに加わり、若き天才の名を欲しいままにした、トニー・ウィリアムスの、当時50歳にして最後の録音。躍動的で力強い演奏は生き生きとして絶好調であるとさえ思えるが、このわずか5ヶ月後、1997年2月、突如として、彼はこの世を去ることになる。
そういう想いで聴くと、とても切なくなるのでいけないのだが、このアルバムでの最大の驚きといえば、ピアノのマリュグリュー・ミラーだろう。全編に渡って端正で柔軟、かつスケールが大きくパワフルな、純ジャズなピアノをしっかりと聴かせてくれるのだが、これが僕としては驚き。
このアルバムを初めて聴いた時(1997年頃だったかな)、マリュグリュー・ミラーが、こんなにバリバリと純ジャズなピアノを弾きたおすのを他に耳にしたことが無かったからだ。マリュグリュー・ミラーって、相当になかなかのピアニストであることを再認識した次第。
が、よ〜く聴いてみると、ドラムのトニーのサポートがあってのこそのミラーの名演である、ということに気がつく。昔のトニーは手数の多さと超弩級の爆音みたいな低音を響かせるドラミングで、他を圧倒するどころか、時にはうるさいくらいで、特に気に入らない相手だとそれが増幅されて辟易することがある位に、前へ出る目立ちたがりのへそ曲がりなドラマーだった。
しかし、このアルバムでは、ピアノやベースがソロを取る時にはしっかりバッキングに回り、時には鼓舞激励するが如く、時には優しく見守るが如く、硬軟自在のドラミングで若手の2人をサポートするのだ。
そんなトニーのドラミングをバックにしているからこそ、マリュグリュー・ミラーのピアニストとしての才能が最大限に発揮されるのだろう。とにかく、僕の大好きなスタンダード「On Green Dolphin Street」や、ビートルズの名曲「The Fool on the Hill」のカバーなどでは、このトニーとミラーの関係が最良の形で提示されており、聴いていてとても楽しい。
しかし、今まで、こんな共演者を惹き立て、共演者の長所を伸ばし、隠れた才能を引き出すトニーって、聴いたことがなかった。このアルバムで見せた、素晴らしいテクニックに裏打ちされた素晴らしいバッキングが続いていれば、と思うと、早すぎる死が悔やまれてならない。
ともあれ、トニーのパワフルなバスドラムとシンバルの切れ味、そしてピアノ・ベースと三位一体となった豊かで鮮やかな響きは必聴です。そして、最後に、このアルバムを聴いて絶賛していたマリュグリュー・ミラーも2013年5月に鬼籍に入ってしまった。改めて、ご冥福をお祈りしたい。
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初めまして、トニー御大の話題が出ていたので、ちょっと一服させてください(笑)。
トニー・ウィリアムスの生前最後のアルバムは「ウィルダーネス」でしたので、世間的にはあれが遺作なんでしょうが、正直あのアルバムは大御所の寄り合い所帯で作った散漫な作品という印象が拭えず、死蔵しています。こういうストレートアヘッドなトリオ作で人生の締めくくりを迎えられたのは幸せだったかも知れませんね。
個人的には、剃刀のような切れ味のシンバルワークが神懸かっていた1960年代のドラミングを聴いて彼に惚れ込んだので、仰るようなドコドコしたバスドラと小太鼓類を多用するパワードラムになってしまった後年は、正直あまり彼のことは好きではなくなってしまったんですが、逆に彼が1980年代に結成したクインテットは御大を軸にすごく統率がとれていてレベルが高かったです。斯界への遡及力はずっと小さかったけれど、あの五重奏団はブレイキー・スクールと同じくらい評価されていいグループだったと思います。
マルグリューはこの五重奏団の子飼いで、御大の寵愛も篤く、彼のグループで随分表現の幅を広げたピアニストでしたね。デビュー当時のようなマッコイ一辺倒のままだったら、後年あれだけファースト・コールのセッション・ピアニストにはなれなかったんじゃないでしょうか。ベースのアイラ・コールマンも、チャーネット・モフェットの後任として、御大の五重奏団を支えた人ですね。なのでこのトリオ作は実質、フロントの二管を抜いたトニー・ウィリアムス五重奏団。そういう作品で人生の最後を飾れたというのは、きっとこのグループでの活動を後年の指針にしていた彼にとっては本望だったんじゃないかなと思っています。
投稿: ぷーれん | 2015年3月18日 (水曜日) 01時47分
こんにちわ。
ぷーれんさんのご意見に深く同意でございます。^^
私は長い間、トニーのマイルス時代の恐るべきスピードのシンバリングが、はたして「シングルショット」なのか、あるいは反動を用いた「ダブルショット」によるものか?という疑問を抱いておりました。
ユーチューブではじめて当時のマイルスコンボでのトニーの映像をみてそれが「ダブルショット(反動を利用したもの)」であることを知り長年の疑問がとけましたが、それはそれで、その音の粒だちのキレ味に唖然とするものでもありました。
晩年の演奏ではバズドラの多用がうるさいなあ・・と思っていましたが、たぶんそれは若い頃に「フットワークが弱い」?などという見当はずれな評論で叩かれたこと?にたいする反動でわないかっ!?(~o~)と、勝手に思っていました。(笑)
個人的にはドラムスはあくまでも「基本3点セット」でスゴわざを見せてくれるスタイルが好きなのですが、初期のトニーのドラムソロはとても音楽的で「鑑賞に値する」ソロが多かったように思います。
ドラムソロの多くはショウケース的なものが多いので、生で見ていると盛り上がりますが、繰り返し聞けるソロはとても少ないと思ってしまいます。
マイルスの「フォア&モア」における「ウオーキン」でのトニーのソロこそ、繰り返しの鑑賞に値する、完成された芸術的ソロではないでしょうか。
投稿: おっちゃん | 2015年3月19日 (木曜日) 09時04分