ファースト・コールのベーシスト
ハードバップ時代、演奏者の誰もが共演を望んだベーシストと言えば、この人、ポール・チェンバースである。いわゆる「ファースト・コール」ベーシストである。
とにかく、ハードバップの名盤と呼ばれるアルバムというアルバムに、必ずと言っていいほどその名を連ねており、かのマイルス・デイビスのレギュラーバンドのベーシストにも抜擢され、ハードバップ時代のベーシストといえば「ポール・チェンバース」という図式が出来上がっているほど、凄いベーシストなのだ。
今日は、この「ミスター・ベーシスト」、 ポール・チェンバースの代表盤の一枚をご紹介したい。その代表盤の一枚と言えば、まずはこれだろう。Paul Chambers『Bass On Top』(写真左)。1957年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Paul Chambers (b), Hank Jones (p), Kenny Burrell (g), Art Taylor (ds)。さすがはブルーノート、実に魅力的なパーソネルである。
このアルバムを聴けば思わず唸ってしまう。う〜む、当時のベーシストで、ギターの様に唄うが如くベースで旋律を刻めるのは、スコット・ ラファロ(ビル・エバンスとのピアノトリオで有名)だけでは無かったぞ、と。
このアルバムのチェンバースはソロは「素晴らしい」の一言。当時、チェンバースは様々なセッションに顔を出す超売れっ子だったが、このリーダー作ほどにはテクニックを聴かせることは無かった。 どちらかと言えば、リーダーを惹き立たせ、リズムと音程をしっかりキープする役割に徹していた感がある。
しかし、このアルバムは、ベーシストのポール・チェンバースの面目躍如。どの曲もベースがしっかりと主役を取っていて素晴らしい。このアルバムは、ポール・チェンバースの、ひいてはジャズ・ベーシストのショーウィンド的な内容で、目眩く万華鏡の様な、その卓越したテクニックがそこかしこに散りばめられている。
1曲目の「Yesterdays」はボウイング(弓でコントラバスみたいにジャズ・ベースを弾くこと)が素晴らしい。ジャズ・ベーシストのボウイングはベースのチューニングが少し狂っていたりして、なんか少し音程が狂った感じがして、居心地が悪い感じがするものが多いのだが、このアルバムのチェンバースは実に健闘している。及第点のボウイングである。
2曲目の「You'd Be So Niice to Come Home To」と5曲目の「The Theme」での ベース・ソロは唄うが如く、いやはや絶品です。そして、各演奏でのピアノやギターがソロを取る時のバックでのウォーキング・ベースは、これこそ、チェンバースの十八番とも言える絶妙なもの。
ポール・チェンバースのベースは、決して大向こう張る派手派手しさは無いし、あっと驚くような超絶至極なテクニックを全面に押し出すものでもない。サイド・マンとしてのチェンバースは決して主役を食うこと無く、脇役に徹しながらも、キラリと光る主張とセンスが素晴らしい。
バッキングという脇役に回ったポール・チェンバースのベースは、常に助演男優賞を受賞してしまう様な玄人好みの男優のようである。このアルバムの様に、リーダーとして主役に回ったチェンバースは「ジャズ・ベースとはかくあるべし」的な、様々なバリエーションの演奏を繰り広げてくれる。まさに優れた若きシェフのようでもある。
ジャズの演奏の中で、ベーシストの存在に注目することは、ジャズ演奏を愛でる上で大切なこと。彼のベースの良さが判るようになれば、ジャズ者初心者は卒業である。
震災から3年11ヶ月。決して忘れない。まだ3年11ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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