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2015年1月 7日 (水曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・35

ビッグ・バンド・ジャズの世界には、ちょっと変わった楽団が存在する。この楽団の音をアルバム2〜3枚聴いた後、ふと思う。この楽団の演奏って、アルバムって、きっと日本では受けが悪かったんやろうなあ。はっきり言って、得体が知れないというか、何だか理解し難い音作りなのだ。

その楽団とは「Sun Ra and His Arkestra」、略して「Sun Ra Arkestra(サン・ラ・アーケストラ)。土星から来たジャズバンドと言われる。もちろん、リーダーのサン・ラは土星人である(笑)。と本人は語っているのだが、1914年、アラバマ生まれのサン・ラは、54年には自己のレーベル「サターン」を設立し、そのころから、自ら率いるビッグバンド「アーケストラ」で精力的な活動を展開していった。

この自身を「土星人」とし、自身が主宰するビッグバンドを「土星から来たジャズ・バンド」として、その呼び名を「アーケストラ」とするところなど、もはや、絶対に日本では「うけない」。日本の真面目なジャズ者の方々は「ゲテモノ扱い」し「際物扱い」する。そして、そのアーケストラの出す音を聴いて、これまた、真面目なジャズ者の方々は「途方に暮れる」。真面目にやってるんだか、ふざけているんだか、日本人の真面目なジャズ者の方々の理解を超えた音なのだ。

例えば、このアルバムを聴けば、そのサン・ラのちょっと「へんてこりん」な音世界がよく判る。Sun Ra Arkestra『Jazz in Silhouette』(写真左)。「silhouette=シルエット」、カナ読みにすると『ジャズ・イン・シルエット』。1959年3月6日、シカゴでの録音。1959年と言えば、ジャズ界はハードバップ真っ盛りの時代。先進的なジャズとしてはモード・ジャズが台頭し、ファンキー・ジャズがポピュラー音楽の一端を担っていた時代。

まずは、ジャケットが怪しい。1959年、ハードバップ真っ盛りの時代に、このジャケット・デザインは凄い。むっちゃシュールなイラスト。むっちゃチープなタイポグラフィー。確かに、雰囲気は1950年代のモダン・アート。でも、この怪しさは、Sun Ra Arkestraの独特の個性に呼応する。
 

Jazz_in_silhouette

 
1959年、ハードバップ真っ盛りの時代にこの音である。基本的には「古い響き」がする。Sun Ra Arkestraの音の基本部分は、スイング・ジャズ時代の響き。オールド・スタイルな音の響き。聴き易いが、この音のどこが「尖っている」のかよく判らん、と思いつつ聴いていると、徐々に、その「へんてこりん」な音世界に気が付き始める。

テナーやトランペットのソロが、そこはかとなく「アブストラクト」なのだ。フリーではないのだが、ところどころ、やけに「アブストラクト」なのだ。これが、オールド・スタイルな音の響きの中で「映える」。そして、バックに回った時のアーケストラのユニゾン&ハーモニーの重ね方が、これまた「アブストラクト」な不協和音で、そこはかとなく「怪しい響き」がバックに充満する。

しかも、この1959年という時代に、エスニックな響きのビッグ・バンド・ジャズが展開され、なんだなんだ、と思って聴き進めると、当時の先進的なジャズ・スタイルである、モーダルなアレンジが疾走する。思わず「はぁ〜?」である(笑)。でも、これが、バラバラでは無く、ほど良く融合され、ハイブリッドな、Sun Ra Arkestraならではの音世界として成立している。1959年という時代からすると、このSun Ra Arkestraの音世界は先進的である。

確かに、こんなに上手くハイブリッドされたビッグ・バンド・ジャズは、Sun Ra Arkestra以外には無い。独特の音世界である。この多様性がどこまで、日本のジャズ者の方々の理解が得られるのか、それはそれで心配になるのだが、僕はこのSun Ra Arkestraの初期の時代の音世界が長年、気に入っている。日本でももっと正統な評価が得られると良いですね。

1993年、サン・ラ没。79歳であった。しかし、サン・ラ亡き後も、Sun Ra Arkestraは、今年91歳になるサックス奏者及びマルチ演奏家、マーシャル・アレンの指揮により、精力的にツアーを続けている。最近、耳にしたのだが、そのちょっと「へんてこりん」な音世界は変わらない。

 
 

震災から3年9ヶ月。決して忘れない。まだ3年9ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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