エバンス者には「聴く価値あり」
久し振りにBox盤を一気聴きした。一気聴きとは言っても、1日1枚、計8日でCD8枚。8枚組Box盤を8日間で一気聴きしたことになる。現在、頭の中はビル・エバンスだらけである(笑)。
そのBox盤とは、Bill Evans『The Secret Sessions』(写真左)。ビル・エバンスの熱狂的ファンが私的に録音した音源。マイク・ハリス&エヴァリン・ハリス夫妻が、ズタ袋の中に隠し持った小型テレコによって私的に録音されたもの。録音場所は固定されていて、これが、ニューヨークのライブスポット、Village Vanguard(ビレッジ・ヴァンガード)と言うのだからビックリ。
しかも、1966年から1975年の間、約10年に渡る間、ずっとビル・エバンス・トリオの演奏を、つまりは「隠し撮り」していた。10年間に渡るビル・エバンス・トリオの変遷が記録されているのだ。エヴァンスが同クラブに出演すると、週2回出かけてテープを回す。赴任先の西海岸からトンボ帰りをしてまで録音を続けたとか。
ファンの気持ちもここまでくると「執念」を感じる。しかし、その「執念」のお陰で、1966年から1975年の間、約10年の間のビル・エバンス・トリオのライブ・スポットでの演奏、つまりは正式なレコーディングでは無い「生の、真の姿の、普段の」演奏の様子を追体験することが出来るのだ。これは素晴らしいことである。
でも、しかし当然のことながら、この録音って、ビル・エバンスによって正式に認められた録音では無い。つまりは違法録音。それでも、その内容の重要性に、エバンスの死後、エバンス財団が許可を出して、Milestones社長であるOrrin Keepknewsがリリースに踏み切ったという曰く付き。これも素晴らしいことである。
素晴らしいことが積み重なって、今、僕達は、このBox盤『The Secret Sessions』を通じて、当時のビル・エバンス・トリオの、正式なレコーディングでは無い「生の、真の姿の、普段の」演奏の様子を追体験することが出来るのだ。
しかも、小型テレコでの録音とは言え、あのUHER(ウーヘル)製の小型テレコでの録音なので、音は意外と良い状態なんですね。もっとチープな音質を想像していたので、この音質にはビックリしました。十分に鑑賞に耐えるレベルです。特に、1970年代に入ってからは、テープの質も向上したんでしょう。想像以上にかなり良い音で録音されています。
さて、この『The Secret Sessions』を一気聴きして感じるのは、正式なレコーディングでは無い「生の、真の姿の、普段の」演奏でありながら、その時その時のビル・エバンス・トリオの演奏のレベルは相当に高いものだ、ということ。そして、コンスタントに高いレベルの演奏内容を維持しつつ、しかも、アレンジやテンポ、演奏の雰囲気などが、ビル・エバンス・トリオならでは個性で、その個性がずっと維持されていること。
さすが、一流のレベルのジャズメンの演奏って、普段の演奏でもそのレベルは高く、その個性は確実に維持されているんですね。実は、個々の演奏毎に、また時期を跨がって、もっとバラツキがあると思っていました。が、そんなバラツキなんてどこにも無い。いや〜、プロのジャズ演奏のレベルの高さを再認識しました。
そして、このBox盤『The Secret Sessions』に収録されている1966年から1975年の間、ベースはほとんどエディ・ゴメスが務め、ドラムが定期的に変わっていく、というパーソネルの変遷で、ビル・エバンス・トリオが演奏する音の傾向や個性が変化するのは、「ドラムの存在と個性」が重要な鍵を握っている、ということがよく判ります。
ビル・エバンスにとっては、ベーシストは、スコット・ラファロ、エディ・ゴメス、マーク・ジョンソンが絶対的な存在であって、この3人のベーシストは良く似通ったところがあって、僕が思うに、ビル・エバンスに合ったベーシストは、この3人のベーシストの音しかない。ビル・エバンス・トリオにとって、ベースの音は変化してはいけないのだ。
しかし、ドラムは違う。その時、その時期によって、ドラムを変えることによって、トリオの音の個性や変化させる、ドラムはビル・エバンス・トリオにとっての「変化の源、変化の鍵」なのだ。この1966年から1975年の間のこのBox盤『The Secret Sessions』に記録されている音を聴けば、それがよく判る。
収録された10年間、エバンスのピアノ・タッチは全く変わりません。これも、このBox盤を聴き通して、初めて実感出来る感覚です。ビル・エバンス者、いわゆるマニア向けのBox盤なんですが、逆に、ビル・エバンス者にとっては、一度は聴く価値のあるライブBox盤だと思います。
震災から3年9ヶ月。決して忘れない。まだ3年9ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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はじめまして。多分同い年の横浜在住・西宮で30歳まで暮らした宮っ子です。
上記にて故郷喪失者のブログを細々やっています。
わけあって生活が波乱万丈すぎ、鬱ブログになってしまいがちですが、西宮のことと
音楽のことを記事にしています。
私も30年以上のビル・エバンスのファンです。そして松和先輩と音楽遍歴も非常に近いものがあります。
今後も楽しみに読ませていただきます。
投稿: せいさん | 2015年1月12日 (月曜日) 21時34分