こんなアルバムあったんや・38
ジャズのスタイルの変遷については、知れば知るほど面白い。1910年代はディキシーランド・ジャズ、1930年代はスウィング・ジャズ、1940年代はビ・バップ、1950年代はハードバップ、と簡単に書けばこんな感じなんだが、それぞれのスタイルの変化の仕方は、そんなに単純ではない。
ここに、含蓄溢れる内容のボックス盤がある。『The Complete Norman Granz Jam Sessions』(写真左)。チャーリー・パーカーからオスカー・ピーターソンまで1952年から1954年当時の第一線で活躍していたジャズメンが一堂に会して行なわれた超豪華なジャム・セッションの記録。LP時代には9枚のLPに分けてリリースされた音源をCD5枚に収録した優れもの。
それまでは、コンサートなどで、第一線で活躍していたジャズメンが一堂に会して、ジャム・セッション風に聴衆の前で演奏したということはあったが、このノーマン・グランツが主宰した、スタジオに才能あるミュージシャンを集めて、スタンダードやブルースを思う存分ジャムらせてレコーディングするという方法は無かった。
このスタジオでのジャム・セッション風というレコーディング方法は後に主流となる。ヴァーブ・レーベルの総帥、ノーマン・グランツの功績の一つである。その功績の記録が、この『The Complete Norman Granz Jam Sessions』である。
さて、このスタジオでのジャム・セッションの記録を聴いてみると、これがなかなか面白い。1952年から1954年の録音なので、当時のジャズの最新スタイルは「ハードバップ」。ビ・バップがピークを越え、ハードバップの萌芽があちらこちらの録音に聴かれた時代である。
しかし、このスタジオでのジャム・セッションの記録を聴いてみると、これがどう聴いても「ハードバップ」な音では無い。音の雰囲気はスイング・ジャズに近い。多くのジャズメンを一堂に集めてのジャム・セッションなので、楽器による音の厚みが十分にあって、ユニゾン&ハーモニーの部分などはビッグバンド・ジャズの様な音である。
確かに、このジャム・セッション集のパーソネルを見渡すと、スイング時代から活躍してきたジャズメン、ビッグバンドで活躍してきたジャズメンが多くみられる。管のブロウのテクニックなどは、うっすらとビブラートを加えるオールド・スタイル。リズム&ビートも、スイングからビ・バップのリズム&ビートに留まる。
が、演奏時間は長い。1曲10数分から長いものでは20分を超える。この演奏時間の長さが、それまでのジャズのスタイル、スイング・ジャズ、ビ・バップと全く異なるところ。この収録時間の長さが、それぞれの第一線で活躍していたジャズメンの個性と特徴を最大限に引き出している。
そして、この時代にLPという長時間の演奏を記録し再生出来る「記録媒体」が出現した。このLPの登場が、この時代のジャズのスタイルの変遷に大きな影響を与えたと言って良い。このLPの登場が、このノーマン・グランツが主宰したジャム・セッションの記録と再生を可能にした。
この『The Complete Norman Granz Jam Sessions』には、後のジャズの著名なスタイルの一つである「ハードバップ」な音は聴くことは出来ない。しかし、後に当たり前となる「長時間演奏・長時間録音・長時間再生」の可能性の高さを、このジャム・セッション集では強く感じることが出来る。
「長時間演奏・長時間録音・長時間再生」のジャズは楽しい。ジャズメンそれぞれの個性や特徴を十分に愛でることが出来て楽しい。この『The Complete Norman Granz Jam Sessions』は、そんなジャズの楽しさを十二分に教えてくれる。
震災から3年8ヶ月。決して忘れない。まだ3年8ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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