ハイレゾで聴く『海洋地形学の物語』
最近、やっと話題になってきたハイレゾ・オーディオ。ハイレゾ・オーディオとは、音楽用CDを超える音質の音楽データの総称。「ハイレゾ音源」と呼ばれることもある。バーチャル音楽喫茶『松和』では、今年の初めからチャレンジしてきた。
やはり、音を聴いた時の感覚がCDとは全く違う。それはまあ、ハイレゾ音源の情報力は音楽CDの情報量の約3倍〜6.5倍にもなるので、音の密度、情報量が圧倒的に違う。言葉で簡単に表すと、スタジオ録音時の原曲に近い高音質で、CDではスペック上、再生出来ない音域となる空気感・臨場感の部分まで感じること出来るのだ。
そんな「ハイレゾ音源」で、1970年代のロックの名盤を聴き直しているのだが、これがまた存外に楽しい。1970年代当時、ハイスペックなオーディオ装置で聴かせてもらった情報量の多い、空気感・臨場感を感じられる音に近く、高音質という部分では、上質なデジタル録音的な質の高さ。現在、所有するまずまずのオーディオ装置でも、相当のレベルの音がでるので、とにかく楽しい。
そんな1970年代のロックのハイレゾ音源で、本当に久し振りに聴き直したアルバムが、Yes『Tales from Topographic Oceans』(写真左)。邦題は『海洋地形学の物語』。1973年リリースのプログレッシブ・ロック・バンドのイエスの6作目にして初の2枚組アルバム。
イエスというプログレ・バンドは、そのソング・ライティングと演奏能力の高さをバックに、聴く側の要請に誠実に応える、オーケストラルで長時間に渡る壮大な展開を基にした、聴き易く判り易いプログレ曲を演奏するバンドなんだが、この『海洋地形学の物語』だけは難物である。
聴けば判るのだが、もともと長時間に渡る壮大なプログレ曲は、クラシックの交響曲や交響詩の曲の展開を踏襲した、演奏として「起承転結」を明確にした構築力のある演奏が多い。イエスというバンドは、そんなプログレ曲的な演奏が大得意なバンドなんだが、この『海洋地形学の物語』だけは例外なのだ。
一言で言えば「音のコラージュ」。イエスが来日公演で東京に滞在していた時、リーダー兼ボーカリストのジョン・アンダーソンが、ホテルの自室で読んだヒンドゥー教の経典からヒントを得て、ツアー中にスティーヴ・ハウとの共同作業で構想をまとめたもの。
曲の編集段階では、ほとんどジョン・アンダーソンの一人舞台だったらしく、メンバーそれぞれも、どの演奏パートがどの曲のどの部分に使われたのか、良く判らなかったそうだ。それが不満となって、ドラムのビル・ブルーフォード、キーボードのリック・ウェイクマンが脱退した曰く付くのアルバムとなった。
1曲1曲が相当に長く、内容的には非常に難解。演奏をパーツ化して切り貼りしているので、演奏として「起承転結」を明確にした構築力は薄れ、逆に幻想感と抽象性が強くなり、歌詞や曲想は難解。キャッチャーで印象的なフレーズもあるにはあるのだが、長続きせず、アブストラクトな展開に突如切り替わったりする。とまあ、手っ取り早く言えば「失敗作」であろう。
しかし、この難解な長編アルバムを「ハイレゾ音源」で聴くと、音のコラージュの部分の解像度が上がり、様々な音が重ねられている部分の分解能が上がり、音のエッジが円やかになって聴き易さが上がって、なんとか最後まで聴き通せるレベルにまでになった。「ハイレゾ音源」のお陰で、僕にとっては、この『海洋地形学の物語』が鑑賞に耐えるレベルにまでなった訳である。
ハイレゾ・オーディオは、今まで聴いてきたアルバムの印象がガラッと変わる可能性を秘めている。それほどまでに、ハイレゾ音源の情報量は圧倒的である。今回、このイエスの『海洋地形学の物語』を聴いて、その意義を再確認した次第。
震災から3年8ヶ月。決して忘れない。まだ3年8ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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