これがジャズ演奏の「味」の部分
1950年代のハードバップ時代を駆け抜けたトラペッターの中でもユニークな存在。このタイプのトランペッターは、ジャズでのみ存在が活かされる。逆に、クラシックでは絶対に活かされない。
そんなユニークなトランペッターが、Kenny Dorham(ケニー・ドーハム)。1924年8月30日生まれ、乙女座のトランペッター。1950年代のハードバップ時代は、30歳前後の年齢的にも充実した時代で、アルバムの数も多く、かなりの活躍の跡を残している。
このケニー・ドーハムのトランペットの特徴は「ヘタウマ」。誤解しないで欲しいが「下手」と言っている訳では無い。音色は明朗で滑らか。テクニックもまずまず確か。しかし、そのフレーズはちょっと危うい。滑らかにアドリブ・フレーズを吹き進めていくのだが、ところどころで音の端々で「よれる」もしくは「ふらつく」。
この「よれる」もしくは「ふらつく」が、楽器をやっていたものにとっては、すごく「気になる」。テクニック的には水準以上のものがあるのに、フレーズの端々で、フレーズの終わりが「よれる」もしくは「ふらつく」のだ。聴いていて、そこだけ「オヨヨ」となる。スリリングではあるのだが、精神衛生上、あまり宜しくない。
この「よれる」もしくは「ふらつく」が玉に瑕なんだが、ドーハムのアドリブ・フレーズは、哀愁を帯びたファンクネス漂うフレーズなので、これがハードバップの演奏スタイルと相まって、実にジャジーに響く。このジャジーなトランペットの響きに、この「よれる」もしくは「ふらつく」が許せてしまうのだ。ジャズならではの感覚である。
例えば、このハードバップ時代のライブ名盤『'Round About Midnight at the Cafe Bohemia』(写真左)を聴けば、そのドーハムのトランペットの特徴が良く判る。演奏全体の雰囲気は「ハードバップど真ん中」。ドーハムはバッチリと吹きまくっている。が、フレーズのところどころが「よれる」もしくは「ふらつく」。
実は、ジャズ者初心者の頃は、この「よれる」もしくは「ふらつく」が、どうしても許せなかった。この「よれる」もしくは「ふらつく」がドーハムの個性であり特徴であり、これがジャズ演奏の「味」の部分なのだ、と許容出来るまでに結構な年月がかかった。許容出来る様になったのは、年齢的には40歳を越え、50歳が近づく頃だっただろうか。
実はこのライブ名盤『'Round About Midnight at the Cafe Bohemia』は、リーダーのケニー・ドーハムのトラペットの他に、J. R. Monterose(J.R.モンテローズ)のテナーが心ゆくまで楽しめるのだ。知る人ぞ知る、マイナーでマニアックな存在のテナーマン。このJ.R.モンテローズがガンガンに吹きまくっている。貴重だ。
ドーハム率いる伝説のハードバップ・コンボ 「ジャズ・プロフェッツ」 唯一のライブ盤。ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp), J.R. Monterose (ts), Bobby Timmons (p), Kenny Burrell (g), Sam Jones (b), Arthur Edgehill (ds) 。1956年3月31日、ニューヨークのカフェ・ボヘミアでのライブ録音。 ブルーノートの1524番。
ケニー・ドーハムのトランペットは、ジャズでのみ存在が活かされる。クラシックでは絶対に活かされない。ジャズはドーハムのペットを許容するが、クラシックは許容しない。これがジャズ演奏の「味」の部分なのだ。
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