戸惑うジャズ者、微笑むジャズ者
ブルーノート・レーベルのアルバムには、「へー、こんなアルバムあったんや」とか「こんなジャズメンもいたんや」って心底感心するアルバムがある。これが結構な数あったりして、さすがは老舗ブルーノート、奥が深いジャズ・レーベルである。
例えば、こんなアルバムがある。ブルーノート1536番の『J.R. Monterose』(写真左)。1956年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Ira Sullivan (tp), J.R. Monterose (ts), Horace Silver (p), Wilbur Ware (b), Philly Joe Jones (ds)。
J.R. Monterose(J.R.モンテローズ)は1927年生まれ。1950年代から1960年代前半のハードバップ全盛期は、20歳台半ばから30歳半ば。気力体力充実なミュージシャンとして、一番溌剌とした年頃。このアルバムでは、そんなモンテローズの溌剌としたテナーが聴くことが出来る。
どんなテナーなのかは、冒頭の「Wee-Jay」を聴けば良く判る。この曲の演奏の中で、J.R.モンテローズのテナーの個性の全てが判る。スタッカートの多用、高音の独特の節回し、太くて疾走感溢れる低音。速いフレーズは少したどたどしく、スローなフレーズはちょっとゴツゴツしている。
このブルーノート1536番の『J.R. Monterose』を全編聴き通すと、正直なところ、このモンテローズって、下手なのか上手いのか、良く判らないところがある。良く言えば「ヘタウマ」、悪く言えば「テクニックにバラツキがある」。それでも、アドリブ・フレーズが意外と渋いので、聴き応えがあるというか、アルバムの演奏自体に「コク」があるのだ。
そして、バックのリズム・セクションが良い。ピアノのシルバーは、さりげなくファンキーなピアノで、モンテローズのアドリブを支え、ウエアのベースとフィリー・ジョーのドラムが、演奏全体のリズム&ビートを思いっきり煽る。
トランペットのサリバンもこのアルバムではなかなか健闘しているではないか。さすがはブルーノート。渋くてジャジーなサイドメンを選んでくる。こんな優れもののジャズメン達が必ずリハーサルを積んで、本番の録音に臨むのだ。ブルーノートに駄作が無いのも頷ける。
このアルバムがジャズ喫茶でかかると、面白いコントラストに思わずニンマリする。このブルーノート1536番の『J.R. Monterose』が流れて、あれっ、ロリンズのようだがロリンズじゃない、誰だこれ、と思いっきり「戸惑うジャズ者」と、このアルバムを実は良く聴き込んでいて、知ってるぜこれ、俺は聴いてるぜ、と鼻高々に「微笑むジャズ者」の二通りに反応が分かれる。これが面白い。
そういう意味では、このブルーノート1536番の『J.R. Monterose』は、マニア御用達のマイナーな存在のアルバムではあります。しかし、このアルバムはジャズ者初心者の方々にもお勧め。メジャーな有名テナーマンとはちょっと佇まいが異なるハードバッパーを体験するのも、ジャズ鑑賞の裾野を広げる意味で良いことだと思います。
ジャケットも、ただただ格好良い。何処から見てもブルーノートのジャケット・デザイン。眺めているだけで幸せになれる「至福のジャケット・デザイン」である。
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