ジャズ喫茶で流したい・57
僕はこのピアニストが好きだ。昔から時々、何枚かのアルバムを引っ張り出して来ては聴く。基本的には寡作のピアニストである。
そのピアニストとは、Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)。「医師とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物である。医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。
そのザイトリン、デビューした時から、そのピアノの響きとフレーズは新しい響きに満ちて、「新主流派」のトレンドを先取りした様な先進的なピアニストであった。
ザイトリンのデビュー盤が、Denny Zeitlin『Cathexis』(写真左)。1964年2月と3月の録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Cecil McBee (b), Frederick Waits (ds)。ザイトリンがリーダーを張る。ベースのセシル・マクビーは、当時、新鋭のベーシスト。フレデリック・ウエイツは・・・知らない(笑)。
ザイトリンはGeorge Russell門下。ピアノの響きはエバンス派と解釈されるが、和音とフレーズの響きは、エバンス派のそれとは全く異なる。和音の作りはセロニアス・モンクを端正にした様な、やや不協和音がかった個性的な和音。フレーズは、高速モーダル・ピアノ。エバンス派と解釈されつつ、ザイトリンの感覚は全く異質なピアノ。
当時、頭角を現していた新主流派、例えばハービー・ハンコックの様なピアノではありながら、ハービーと比べて、もっとアグレッシブで、もっと疾走感溢れる、もっと端正なフレーズが特徴。モーダルで高速フレーズとくれば、マッコイ・タイナーと同質かと想像するが、タッチは全く異なる。ザイトリンのタッチは冷静であり、典雅であり、理知的である。
このデビュー盤『Cathexis』を聴けば、それが良く判る。1964年のデビュー盤でありながら、そのピアノの響きは先取性に溢れたもの。1964年当時のジャズピアノ・シーンで、恐らく、このザイトリンの個性は、当時のジャズピアノの先端の部分で、その響きは明らかに新しい。
ぼんやり聴いていると、この適度に端正で適度にアブストラクトで適度にモーダルなピアノは、1970年前半のECMレーベルのジャズピアノを先取りした様な、先取性溢れる新しい響きに満ちている。これがデビュー盤であることに驚く。
セシル・マクビーとフレデリック・ウエイツのリズム&ビートも新しい響き。このリズム・セクションが新しいビートをバンバン叩き出し、フレーズを取るピアノのザイトリンは更に新しい響きを付け加えていく
ジャズ・ピアノのハードバップからモーダルなピアノへの、そしてその先のコードとモードの効果的使い分けの1970年のネオ・ハードバップへの進化という、時代を先取りした響きに思わず驚く。
「Cathexis」とは対象にある感情や関心を注ぐこと、とのこと。精神科用語の様で、さすが精神科医との二足の草鞋を履くピアニストならではのタイトルの付け方。
この『Cathexis』を聴いていて、思わず「栴檀は双葉より芳し」という諺を思い出した。このデビュー盤の『Cathexis』で、ザイトリンの個性は完成していたのだ。
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