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2014年9月18日 (木曜日)

忘却の彼方の個性派ピアニスト

ブルーノート・レーベルのカタログを眺めていると、これは珍しいとか、これは知らなかったとか、なんじゃこれは、とか(笑)、実にマニアックな内容の、マニアックなジャズメンのリーダー作が存在する。

例えば、このハービー・ニコルス(Herbie Nichols)。1963年、満44歳で没した、かなり個性的なピアニスト。音の響きは、まるで「セロニアス・モンク」。そのフレーズのノリはモンクと同じく「スクエア」で、ところどころ不協和音を配した、ちょっと前衛的な響きのする個性的なピアノ。

加えて、ニコルスは、ピアノの鍵盤を叩き、弾く様に弾く。ピアノという楽器の打楽器的要素の部分をフレーズの真ん中に置いている。これもモンクと同じ。しかし、その打楽器的要素は、モンクのそれと比べると、それほど複雑では無く、哲学的では無い。ニコルスのそれは、平易で判り易い「打楽器的要素」。

右手の捌きは「ビ・バップ」。モンクの様に間を活かした幾何学的なフレーズの積み重ねでは無く、モンクの間を音符で埋めた様な、饒舌なビ・バップ的なフレーズの積み重ね。僕は、このハービー・ニコルスのピアノを「饒舌でビ・バップなモンク」と評している。

そんな「リトル・モンク」的なピアノを堪能出来るアルバムがブルーノート・レーベルに残されている。ニコルスは、リーダー作を数枚しか残していないので、このブルーノートのリーダー作は実に貴重である。

しかし、これが、ニコルスが、アルフレッド・ライオンに、ブルーノート・レーベルでの自身のリーダー作の録音をしつこく懇願し、遂にライオンが折れて実現したリーダー作である。ライオンが素晴らしい仕事をした訳では無く、ニコルスの粘り勝ちの果ての歴史的成果である(笑)。
 

Herbie_nichols_trio

 
そのアルバムとは、Herbie Nichols『Herbie Nichols Trio』(写真左)。ブルーノートの1519番。1955年8月と1956年4月の録音をカップリングしている。ちなみにパーソネルは、Herbie Nichols (p), Teddy Kotick (b,1956年の録音), Al McKibbon (b,1955年の録音) , Max Roach (ds)。

「リトル・モンク」的なニコルスのピアノであるが、モンクとは響きが違う。モンクの叩く様な不協和音は、外に弾ける様な、外向的な響きだと感じるが、ニコルスの叩く不協和音は、内に籠もっていく様な、内向的な響きだと感じる。

モンクの間を音符で埋めた様な、饒舌なビ・バップ的なフレーズの積み重ね。このハービー・ニコルスの「饒舌でビ・バップなモンク」が饒舌になればなるほど、内向的な響きが増幅される。「陽」のモンクと「陰」のニコルス。この絶妙な対比は実に興味深い。

ニコルスは、モンクの研究家だったとも聞く。ニコルスのこのピアノ・トリオ盤を通して、セロニアス・モンクの個性を明快に表現したかったのではないか。それほどに、ニコルスのピアノを聴けば聴くほど、モンクのピアノが思い出される。面白いのは、モンクのピアノを聴いても、ニコルスのピアノは思い出さないこと。これは不思議だ(僕だけかなあ、この感覚)。

ニコルスの才能を確信するには、あまりに成果が少なすぎる。この『Herbie Nichols Trio』の後、録音の機会に恵まれず、ブルーノートの総帥であるライオンも、ニコルスの新たなリーダー作を録音することは無かった。この事実を僕達はどう受け止めたら良いのだろうか。そういう意味では、実に中途半端な位置づけであり存在である「困ったちゃん」な盤ではある。

 
 

震災から3年6ヶ月。決して忘れない。まだ3年5ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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