ジャズ・ボーカル盤に大切なこと
最近、ジャズ・ボーカルが芳しく無いのでは無いかと危惧している。毎月毎月、雨後の竹の子の様に、新人のジャズ・ボーカリスト、特に女性ジャズ・ボーカリストがデビュー盤をリリースするのだが、殆どのボーカリストが2枚目のリーダー作にたどり着くことが無い様なのだ。
ジャズ雑誌では、そんな新人女性ボーカリストのデビュー盤は当然の様に絶賛される。特に、最近のレコード会社の傾向は「ルックス重視」。ジャケ写でグッと惹き付けて、ジャズ雑誌の絶賛記事に釣られて、思わず手にしてしまう。それでも、最近の女性ジャズ・ボーカリストの実力は確かなものが多い。さすがにアルバム・デビューするボーカリストは、それなりの力量を身につけている。
ルックスも良く、ボーカルそのものもそれなりの力量を発揮している。それでも殆どのボーカリストが2枚目のリーダー作にたどり着くことが無い。これはどういうことなのか。
今回、そんな数多溢れる女性ジャズ・ボーカルの新盤の中で、これはなかなか良いなあ、と感心し、このところ、我がバーチャル音楽喫茶『松和』で、そこはかとなくヘビロテになっている女性ジャズ・ボーカル盤がある。そのアルバムとは、iET『So Unreal』(写真左)である。
iETは「イート」と読む。オランダ出身。米国西海岸サイケデリック・ロックやサーフィン・ロック、伝統的なジャズ音楽や映画音楽など幅広な音楽に親しみ、コンテンポラリーなジャズ・ボーカリストとして頭角を現してきた逸材だ。リズム&ビートがコンテンポラリー・ジャズのそれで、彼女のボーカル盤の内容は「ギリ」ジャズだと評価している。
そんなiETの新作がこの『So Unreal』。スムースかつ力感のある、ボリューム感があり繊細。そんな彼女のボーカルがとことん堪能出来る素晴らしい内容のジャズ・ボーカル盤である。まあ「ジャズ」とは言っても、かなり時代の最先端のリズム&ビートを採用した「コンテンポラリー・ジャズ・ボーカル」の類である。決して、伝統的なジャズ・ボーカルでは無い。
収録された曲自体の魅力もあるが、このコンテンポラリー・ジャズ・ボーカル盤の特徴は、アルバム全体のプロデュースとアレンジが秀逸だということ。この秀逸なプロデュースとアレンジが、iETの個性と才能を最大限に引き出している。
このアルバムのプロデューサーは、クラブ系の名プロデューサー&エンジニアであるRussell “The Dragon” Elevado。このクラブ系の鬼才がiETの才能と相まって、良質の「化学反応」を起こしている。
なるほどなあ、ジャズ・ボーカリストがデビュー盤の一発花火に終わること無く、2枚目、3枚目のリーダー作をリリースし続けるには、このRussell “The Dragon” Elevadoの様な、優れたプロデューサー&エンジニアが必要なのだ。
そして、その秀逸なプロデュースの下、優れたアレンジが施され、優れたバック・ミュージシャンが集められ、優れたエンジニアによって、個性的な音世界が創造される。そういうバックボーンが整ってこそ、新人ボーカリストの優れた才能と個性が引き出され、魅力あるボーカル盤が創造されるのだ。なるほどなあ。優れた才能と個性のボーカリストだけでは駄目なのだ。
確かにそれは言える。伝統的なジャズ・ボーカルの世界でも、優れたボーカル盤というものは、やはり優れたプロデューサーやアレンジャーの協力があって初めて成立することが多い。それは現代でも同じなんだろう。
とにかくこのiET『So Unreal』というボーカル盤は良いですよ。我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、最近のジャズ・ボーカル盤としてイチ押しのアルバムになっています。冒頭の「Fool」から「Time」そして「Innocence」と3曲聴き進めて来れば、もう途中で止めることは出来なくなります。それほど、惹きの強いボーカル盤です。
そして、正式なアルバムとしてはラストの11曲目「Great Gig in the Sky」で思わずしみじみとしてしまう。邦題「虚空のスキャット」。伝説のプログレ・バンド、ピンク・フロイドのモンスター盤『狂気(The Dark Side Of The Moon)』のLP時代のA面ラストを飾るエモーショナルなスキャット曲。この名曲をiETは忠実にカバーする。
この「Great Gig in the Sky」のカバーを聴いた時はビックリした。そして、このiET『So Unreal』というアルバムに惚れ込んだ。「Great Gig in the Sky」をカバーするコンテンポラリー・ジャズはそうそう無い。iETのセンスと才能を強く感じる。
震災から3年5ヶ月。決して忘れない。まだ3年5ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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