ジャズ喫茶で流したい・55
そもそもが、昔のマイルスの談話がいかんと思うんだが、マイルスはマッコイ・タイナーのピアノを評して、コルトレーンとやっていない時の「マッコイ・タイナー」は「くそったれ野郎」。つまりは、自分のトランペットのバックには絶対に合わない、という意味なんだが、これを拡大解釈して、タイナーのピアノは良くない、と評するジャズ者の方々もいらっしゃるから困ったものだ。
逆に、ウィントン・マルサリスなど含むマルサリス一家は、このマッコイ・タイナーのピアノが大好きで、父親のエリス・マルサリスは、息子のウィントンやブランフォードに、モード・ジャズにおける最高のピアニストの一人として、マッコイ・タイナーを聴かせていた、という話も聞く。
確かに、マッコイ・タイナーのピアノは、激しいタッチの、コルトレーン仕込みの「シーツ・オブ・サウンド」なモーダル奏法が基本なので、マイルスの評する様に、マッコイ・タイナーのピアノは、コルトレーンのバックにあって最高に映えるものであり、コルトレーンのバック以外では、この奏法は確かに違和感を覚える感覚なのは理解出来る。
しかし、このアルバムを聴くと、マッコイ・タイナーのピアノって、いつも常に、激しいタッチの、コルトレーン仕込みの「シーツ・オブ・サウンド」なモーダル奏法なのかと言えばそうでも無い訳で、ピアノ・トリオになればピアノ・トリオ向けの奏法に切り替えて、ピアノを弾いている。そりゃあそうだろう、マッコイ・タイナーだってプロだからねえ。その時々のシチュエーションに合わせて、奏法を切り替えること位するだろう。
そのピアノ・トリオ盤とは、McCoy Tyner『Nights of Ballads & Blues』(写真左)。1963年3月の録音。1963年と言えば、マッコイ・タイナーがコルトレーンの下、ガンガンに激しいタッチで、コルトレーン仕込みの「シーツ・オブ・サウンド」なモーダル奏法をやっていた頃である。それが、このアルバムでは、しっかりとピアノ・トリオ向けに奏法をチェンジしている。
タッチは硬質だが、「激しい」とか「ハンマーで打ち付けるような」とか、コルトレーンの下でのタッチは殆ど感じ無い。ブロックコードの左手もしっかりとしたタッチではあるが、叩く様な感じは全く聞かれない。確かに、当時、周りのピアニストのタッチに比べると硬質で叩く様な感じはあるが、これがコルトレーンのバックでガンガンに弾きまくっていたマッコイ・タイナーと同一人物とは想像出来ないのではないだろうか。
実は僕もそうだった。ジャズ者初心者の頃、ジャズを聴き始めて3年位経った頃だったろうか、例の「秘密の喫茶店」でこの盤を聴いた時、これ誰だ、と思った。新人かと思ったが、録音の音がちょっと古い。1950年代後半から1960年代前半のハードバップの頃の演奏か、と「あて」をつけたが、これだけハッキリとしたタッチのピアニストが浮かばない。
ということで、ママさんのところまで行ってジャケットを見せて貰ったら、なんと、アップのマッコイ・タイナーが写っているではないか(笑)。確かにインパルス・レーベルのジャケットらしいデザインではあるが、ちょっとアップすぎやしませんか(笑)。ジャケットを見てビックリ。これがマッコイ・タイナーのピアノなのか、と感心しました。
タイトルから、このアルバムがスタンダード曲中心の選曲であることは想像出来ます。1曲だけ自作曲が入っていますが、他の曲は、確かに、有名なジャズ・スタンダード曲のオンパレード。有名なジャズ・スタンダード曲を弾き上げていくタイナーって、なかなか耳にすることが出来ないだけに、このアルバムは味わい深いものがあります。
どの曲も演奏も、実によい雰囲気のピアノ・トリオ演奏になっていて、あっと言う間に全曲聴き終えてしまうような感覚です。基本はハードバップな演奏ですが、ところどころ、モーダルに走ったり、コルトレーン仕込みの「シーツ・オブ・サウンド」が垣間見えたり、そういうところを聴けば、これって「マッコイ・タイナーのピアノ」と判るんですがねえ。
ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Steve Davis (b), Lex Humphries (ds)。良い演奏になるはずのパーソネルに至極納得。ピアノ・トリオの代表的名盤とまではいきませんが、ジャズ喫茶で、ちょっとマニアっぽく流してみたい、そんな玄人好みのピアノ・トリオ盤です。
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