ジャズとポップスの境界線
ジャズは進化するにつれ、様々な他ジャンルの音楽要素を取り込み、その裾野はどんどん広がっていった。逆に、ポップスはジャジーなアレンジをベースに、ジャズをベースにしたポップスを創り出した。前者は「ジャズ」という音楽ジャンルで語られ、後者は「ポップス」という音楽ジャンルで語られる。
しかし、この「ジャズ」と「ポップス」の境界線がかなり曖昧になってきた。ジャズだ、と言い切ることもできず、ポップスと言い切ることが出来ない、どっちつかずのジャンル不明なアルバムが少しずつ出てきた。例えば、このアルバムも、そんな「ジャンル不明なアルバム」の一枚である。
Esperanza Spalding『Radio Music Society』(写真左)。唄う女性ベーシスト、エスペランザ・スポルティングの3枚目のアルバムになります。2011年夏の録音。2012年3月のリリースになります。ジャンルとしては「コンテンポラリー・ジャズ」となっていますが、かなりポップス色の強いアルバムです。
タイトルを日本語にすると「流行音楽同好会」って感じになるかな。エスペランザの言を借りると「ジャズ・ミュージシャンがいわゆる“ポップ・ソング”のフォーマットに近く分類される曲の形式やメロディを探求していくもの」だそうです。
まあ、簡単に言うと、ジャズメンがポップ・ソングをやったらこうなった、という感じのアルバムです。冒頭から5曲くらいは、どう聴いてもジャズでは無い。アレンジ的にもジャジーな雰囲気は希薄で、これってもう、単純にコンテンポラリーな米国ボーカル・ポップスでしょう、って感じです。
半ばくらいから、ビッグバンドをバックにしたような、ゴージャスなジャズ・アレンジな曲も幾つか出てきますが、アルバム全体の雰囲気は、ジャジーなアレンジをベースに、ジャズをベースにしたポップスです。共同プロデューサーとしてヒップホップ界の巨人Q-Tipが参加していますが、あからさまにヒップホップな演奏はありません。
ジャズという音楽ジャンルは裾野が広く、様々な他ジャンルの音楽要素を取り込み、そのバリエーションを広げ深めていった。が、あくまで、底に流れるリズム&ビートはジャジーであり、ファンキーである。そのジャジーであり、ファンキーなリズム&ビートが底に流れているが故に、その音世界は「ジャズ」というジャンルで語られるのだ。
しかし、このアルバムはどうなんだろう。少なくとも、このアルバムの底に流れるリズム&ビートについては、ジャジーな雰囲気は希薄であり、ファンクネスは軽くて乾いている。ボーカルもかなりポップな雰囲気であり、ジャズ・ボーカルのようなコクと粘りは無い。
確かに、「流行音楽同好会」と銘打っているだけに、優れた聴き易いポップスな雰囲気は、収録されたどの曲にも満載。12曲中の10曲が Esperanza による作詞・作曲。コード進行などは意外と複雑で、それでいて、聴き易いポップ性をねらっている感じの曲が多い。聴き易く、格好良くて今風。現代のポップスといては極上の出来と言えよう。
しかし、これを「ジャズ」と解釈するにはちょっとしんどい。ジャジーなアレンジを施した曲も何曲かはあるが、その曲だって、ポップス色優先な音作りである。これを「ジャズ」とするなら、ジャジーなアレンジを施したポップス曲はすべて「ジャズ」になってしまう(笑)。
家でお店で何かをしながら聴き流すには、実に心地良い、とても良く出来たアルバムだと思います。しかし、リーダーのジャズメンの成果として、その音世界と対峙して、シビアに聴き込むという類の、所謂「コンテンポラリー・ジャズ」な雰囲気ではありません。
ジャズを期待するとちょっと困ったちゃんなアルバムですが、ジャジーな極上ポップスとして聴くなら、かなり優れた好盤の一枚だと思います。
大震災から3年3ヶ月。決して忘れない。まだ3年3ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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