チックとマクラフリンの矜持
このライブ盤を聴いた時、これが70歳を越えたミュージシャンの出す音か、と感心するより、良い意味で「呆れた」。2009年にリリースされた、 Chick Corea & John McLaughlin『Five Peace Band Live』(写真左)である。
チック・コリアは、1941年生まれなので、今年で73歳になる。ジョン・マクラフリンは、1942年生まれなので、今年で72歳になる。この70歳を越えた大ベテラン、ジャズ界のレジェンドの2人がリーダーのFive Peace Bandである。しかし、その他3人のメンバーもこれまた凄い。
その他の3人のメンバーとは、Kenny Garrett (as), Christian McBride (ac-b, el-b), Vinnie Colaiuta (ds, per) の3人。凄いメンバーを集めたもんだ。1980年代、帝王マイルスが見出したアルトの才能、ケニー・ギャレット。現代ジャズ・ベースのファースト・コール、クリスチャン・マクブライド。そして、チックが見出したドラムの野生児、ビニー・カリウタ。
ギャレットが、1960年生まれだから、今年で54歳になる。マクブライドは、1972年生まれなので、今年で42歳。カリウタは、1956年生まれだから、58歳になる。ギャレットはもう今年で54歳になるのか。そして、カリウタって、僕より年上なのね。初めて知った(笑)。
この3人の中で一番の年上のギャレットが54歳なので、双頭リーダーの二人とは約20歳以上、歳が離れている。まあ、親子でクインテットを組みました、って感じでしょうか。冷静に数えて、平均年齢約60歳。いやはや、この『Five Peace Band Live』の内容は、とても平均年齢約60歳の出すクインテットの音とは思えない。
チックのエレピとマクラフリンのエレギがメインなので、基本的には、エレクトリック・ジャズの展開である。もう一人、フロントに立つアルトのギャレットも、もともとはマイルス・デイヴィスのエレクトリック・バンドで活躍していたので、アルトの吹きっぷりは、エレクトリック・ジャズでの吹きっぷりである。
そのギャレットが大活躍のDisc1。というか、Disc1はギャレットのアルトを愛でる為にある、と言い切っても良いほど、ギャレットのアルトが絶好調である。とにかく、ギャレットの最近のソロ盤のギャレットの吹きっぷりよりも、この『Five Peace Band Live』のDisc1での吹きっぷりの方が優れている。
まあ、バックのリズム・セクション、マクブライドとカリウタのサポートが鉄壁だからな。マクブライドがしっかりと演奏のベースラインを維持し、リズム&ビートをカリウタが柔軟に叩きだしていくので、フロントのギャレットは好き勝手に吹くことができる。
好き勝手とは言え、チックとマクラフリンがアドリブ・フレーズの方向性を指し示しているので、決して、アブストラクトにフリーキーに走ることは無い。限りなく自由度の高い、縦横無尽、硬軟自在のメインストリーム・ジャズの展開である。
Disc2になると、やはり70歳を越えた二人が我慢できないらしく、のっけから全面に押し出てくる。Disc2冒頭の「Dr. Jackle」でのチックのピアノ・ソロは素晴らしい。これが、70歳を越えたピアニストの音か、とビックリする。若々しく瑞々しい硬質のタッチ、破綻の無い精緻な運指、イマージネーション拡がる煌めく様なアドリブ・フレーズ。このライブ盤でのチックは絶好調。
マクラフリンも負けてはいない。Disc2の2曲目「Senor C.S」はマクラフリンの独壇場。マクラフリン独特のエレギ音で、とにかく弾きまくる、弾きまくる。これが72歳の出す音か。まず音が太い。テクニックは流麗の一言。ワン・センテンスを聴けば直ぐ判る、アドリブ・フレーズはマクラフリン節満載。DIsc1ではバックでサポートに徹していたが、Disc2で遂に全面に躍り出た。
エレ・マイスルで有名な3曲目の「In A Silent Way / It's About That Time」は新解釈。このFive Peace Bandが客寄せの企画バンドでは全く無いことが明白である。マイルス〜ザビヌルのアレンジとは全く異なる、現代ジャズの要素を取り入れた新しいアレンジで、この名曲を聴かせてくれる。40年以上前のエレ・マイルスの名曲・名演が、現代ジャズの新解釈を経て、まだまだ新しい表現を獲得できる可能性があることががよく判る。
このFive Peace Band結成の話を聞いた時は、恥ずかしながら、客寄せ目的の企画バンドでは無いかと訝しく思った。しかし、このライブ盤を聴いて、それは間違いだと気が付いた。70歳を越えたチックとマクラフリンの矜持には頭が下がる。僕は、このジャズ界のレジェンド2人を素晴らしいと思う。
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