テナー4本+ピアノトリオな異色盤
ジャズは即興の音楽であると同時に、ジャズは個の音楽でもある。同じ楽器を演奏しても、ジャズの場合、決して同じ音が出ない。というか、決して同じ音を出さない。そこがクラシックと全く正反対なところである。
ジャズは個の音楽だからこそ、こういうジャム・セッションが成立する。テナー4本+ピアノ・トリオ。ジャズの場合、決して同じ音が出ない。それぞれのジャズメンの個性的な音が出る。テナー4本がフロントを占めるということは、テナーの個性を4種類、楽しむ事が出来る、全くお徳用なジャム・セッションである。
大学時代、このテナー4本+ピアノ・トリオなジャム・セッションの演奏を収録した、このアルバムのタイトルを初めて聴いた時、へ〜っ?と思った。「テナー根比べ」。凄い邦題だなあと思った。テナーの演奏の根比べ。テナー4本でアドリブ合戦の根比べ。はあ〜それで「根比べ」かあ、と感心したら、秘密の喫茶店のママさんに大笑いされた(笑)。
正式なアルバムタイトルは『Tenor Conclave』(写真)。確かにカナ読みにすると「テナー・コンクラーベ」。コンクラーベとはもともとは「教皇選挙会議」の意だが、ここでは「同僚の集まり」の意のほうがしっくりくる。つまりは「テナーの同僚の集まり」である。
そのテナー4本のパーソネルは、Al Cohn, John Coltrane, Hank Mobley, Zoot Sims (ts)。当時のテナーの人気者ばかりがズラリ。そして、バックのリズム・セクションのピアノ・トリオのパーソネルは、Red Garland (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。当時のファースト・コールなピアノ・トリオ。1956年9月の録音になる。
このテナー4本+ピアノ・トリオな、実にお気楽なジャム・セッションのプロデュースは、もちろん「プレスティッジ・レーベル」の仕業である。リーダーを立てず、リハもせず、小遣いの欲しいミュージシャンを集めて、いきなりのジャム・セッション。それをサクッと録音して、安上がりなジャケットに包んでリリース。プレスティッジのお得意技である。
さすがに、これだけ個性的なテナーが4本集まれば、それこそ「船頭多くして船山に上る」な状態に陥るだろう、と思いきや、このジャム・セッションではそうはならないところが、これまたジャズの面白いところ。明確なリーダーがいないのにも関わらず、4人のテナー奏者が上手くお互いの音を確認しながら、アドリブ・パートも均等に割り振りながら、それぞれの個性的なテナーのブロウを聴かせてくれるのだ。
さすがに、この4人のテナーは、アル、コルトレーン、モブレー、ズートだよと事前に教えられれば、それぞれの演奏の中で、そのテナーの音を聴けば、この4人の中の誰が吹いているかはまず判る。アル・コーンとズート・シムズの聴き分けがちょっと難しいが、コルトレーンとモブレーは直ぐ判る。
ちなみに、このアルバム、タイトル通り、4人のテナーの個性を楽しむのが本来の目的なんだが、実はこのアルバムのリズム・セクションである、ガーランドのピアノ、チェンバースのベース、テイラーのドラムが意外に良いのだ。この優れたリズム・セクションのバッキングがあったからこそ、このテナー4本の優れたアドリブが楽しめるのだ。
テナー4本がフロントのジャム・セッションという、ちょっと「キワモノ」っぽい雰囲気と、チープなジャケット・デザインと相まって、その内容を知らないうちは、さすがに手を出しかねるアルバムではあるのですが、テナーの個性を聴き分けることの出来る様になったジャズ者中級者にお勧めの異色盤です。
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