人間マイルスを感じるライブ盤
このアルバムを見る度、このアルバムを聴く度、常に万感の想いがする。1981年10月4日。マイルス・デイヴィスの復帰後初来日。新宿西口広場での野外ライブであった。僕はまだ大阪で大学生をやっていて、大阪には来んのか〜マイルス〜と、ほぞを噛んでいた。
不幸にも来日直前に体調を崩したマイルス。その報に接した時には、マイルスは日本に来ないと思った。が、マイルスはやってきた。しかし、成田空港に着いた姿は車椅子に乗った痛々しい姿。こんな状態で演奏ができるのか。むっちゃ不安になった。後で、雑誌で読んだ。以前患った股関節の手術痕が痛んだのだ。
そして、新宿西口広場での野外ライブのレポートがジャズ雑誌にアップされる。写真は、そんなマイルスの痛々しい姿。そして、ステージでの全く精彩の無い様子。その股関節の手術痕の痛みに耐えかねて、その痛みを紛らわす為にステージを歩き回る姿。よぼよぼの老人のような姿勢。このレポート記事はショックだった。
そして、この足を引きずりつつ、痛みに耐えつつ、マイルス独特のトランペットのパフォーマンスを聴かせてくれる、真摯な姿はNHKでTV放送された。元気な姿を拝みたかったが、こんな痛々しい姿を映像で見て、なんだか熱いものがこみ上げてきたのを覚えている。
しかし、それでもマイルスは日本に来てくれて、日本で演奏してくれた。復帰後の初来日。日本のジャズファンが大好きなマイルス。そして、マイルスが大好きな日本のジャズファン。そんな二者の奇跡の邂逅。
その奇跡の邂逅のライブを記録した音源が、Miles Davis『Miles! Miles! Miles!』(写真左)。CBSソニーから日本限定、LP2枚組(今ではCD2枚組)のボリュームでリリースされた。1983年のことである。テレビで観た、FMで聴いたその演奏の内容から、この時のライブ音源が早々に正式盤としてリリースされるとは思わなかった。
それはこのライブ音源を聴けば判る。マイルスは全くいけてない。弱々しく痛々しいパフォーマンス。時折、光輝く瞬間が無いでは無いが、殆どのパフォーマンスが「いけていない」。殆どのパフォーマンスが、当時のマイルスの水準以下である。これは事実。
しかし、そんなことはどうでも良い、そんなことは何でも無い。長い隠遁生活を経て復帰。その復帰後、体調が最悪にも拘わらず、日本のファンの為に日本に来てくれた、そんな我々にとって素晴らしい出来事を、この音源はそれが全くの事実であることを強烈に教えてくれる。
親分であるマイルス御大の最悪の状態を見、それでも日本のファンの前で集中したできる限りの最高のパフォーマンスを表現せんと努力するマイルスを感じて、バックバンドの面々は、それはそれは素晴らしい「エレクトリック・マイルス」な演奏を繰り広げてくれる。
マイルス御大を盛り立て支え、精一杯、マイルスの意を汲んで、日本のマイルス・ファンの為に、できる限りの最高のパフォーマンスを見せてくれる。そんな素晴らしく頼もしいバックバンドのパーソネルは、Bill Evans (ss,ts), Mike Stern (el-g), Marcus Miller (el-b), Al Foster (ds), Mino Cinelu (per)。
日本のジャズファンが大好きなマイルス。そして、マイルスが大好きな日本のジャズファン。そんな二者の奇跡の邂逅の記録である。ここには、人間マイルスがいる。テクニックなど関係無い、好不調など関係無い。ここには人間味溢れる、我らが愛すべきマイルスがいる。僕は、このライブ音源でのマイルスの存在が大好きだ。そして、このライブ音源のマイルスに感謝している。
通常のジャズ者の方々には全く意味の無いライブ盤だと思います。演奏第一、パフォーマンス第一とするジャズ者の方々にも不必要なライブ盤だと思います。でも、真のマイルス者にとってはマストアイテムでしょう。このライブ盤でのマイルスを愛せるかどうかで、マイルス者の度合いが判る様なきがします。まるで「踏み絵」の様なライブ盤ですね。
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