硬派でハードで時にアブストラクト
前作『Promise Me the Moon』で、開き直ったサンボーンがロック&ポップな面を強め、当時のフュージョン・ジャズのトレンドをしっかりと踏襲した、個性的な内容のアルバムを世に問うたのであるが、意外とセールスは伸びなかった。
それでは、という訳では無かったんだろうが、次作『Heart to Heart』(写真左)では、かなり硬派なフュージョン・ジャズに走った。1978年のリリースではあるが、当時、流行っていたソフト&メロウなフュージョンは絶対にやらないぞ、なんていう、ちょっと捻くれた「矜持」を感じるのだ(笑)。ちなみにこの『Heart to Heart』のパーソネルは、以下の通りになる。
Steve Gadd (ds), David Sanborn (as), Ralph MacDonald (per), Michael Brecker (ts), Randy Brecker (tp), Hugh McCracken (g), Richard Tee (p, el-p, org), Don Grolnick (p), Jon Faddis, David Spinozza (ac-g & el-g)。
いやいやいや、錚々たるメンバーではないか〜。今から思えば凄いメンバーだ。ドラムはガッド、パーカッションはラルフ、ブレッカー兄弟がいて、エレピ&オルガンはファンクネスの権化ティー、そして、スピノザ&ファディスのギター。うっへ〜、このメンバーでは駄作は絶対に無いな。ということで、このサンボーンの『Heart to Heart』は素晴らしい内容のフュージョン・アルバムに仕上がっている。
冒頭の「Solo」は、力強い展開の、硬派なフュージョン・ジャズ。決して、ソフト&メロウなフュージョンでは無い。サンボーンのアルトもブラスの響きがブリブリしている。そんなサンボーンを支えつつ鼓舞する、ガッドのドラミング。時代の流行に迎合しないサンボーンのフュージョンがここにある。
2曲目の「Short Visit」は、大人数の編成でのジャズ・オーケストラ的な演奏。暫く聴いていると、その音の重ね方、ユニゾン&ハーモニーの響きが個性的で、ジャズ・オーケストラ好きのジャズ者の方なら、このジャズオケのアレンジは誰のアレンジだか判るでしょうね。
そう、ギル・エバンスです。ギル・エバンスのジャズオケのアレンジに乗って、サンボーンが硬派にハードに、時にアブストラクトにアルトを吹きまくります。ここでのサンボーンのアルトは凄い。サンボーンのテクニックが確かなことを再確認します。 ギル・エバンスのアレンジが、硬派でハードなサンボーンのアルトを更に全面に押し出します。この演奏はもはやフュージョンでは無い。純なジャズオケでしょう。
3曲目の「Theme From "Love Is Not Enough"」も、邦題は「愛のテーマ」ではあるが、どうして、決して甘いソフト&メロウな演奏では無い。この曲でのサンボーンのアルトは、硬派であり、ハードであり、音が大きく、そこかしこにアブストラクトさを漂わせて、とにかくサンボーンは吹きまくる吹きまくる。
そして、米国ルーツ・ミュージックを愛して止まない僕のお気に入りが、6曲目の「Sunrise Gospel」。リチャード・ティ+スティーブ・ガッドの「スタッフ」のファンクネスなノリで、演奏の展開はゴスペルそのもの。そのゴスペルチックな展開の中で、サンボーンが思いっきりアルトを吹きまくる。凄い音圧、ブラスの響き。名演です。
ラストの「Anywhere I Wander」は感動の名演。劇的な展開の中で、ここでもサンボーンは思いっきりアルトを吹き鳴らします。邦題は「果てなき旅路」で、どうしてこういう邦題になったのか、良く判りませんが、とにかくこのラスト・チューンは感動の名演です。
ジャケットに大写しのサンボーンの顔はちょっとイモっぽくて気恥ずかしい。このアルバム、内容は硬派なフュージョンとして実に充実した内容を誇っているだけに、ジャケット・デザインはもう少し配慮して欲しかったなあ。
このアルバム『Heart to Heart』は、このジャケット・デザインで損をしていますね。このジャケットだけ見れば、聴き心地だけが良い、当時流行のソフト&メロウなフュージョン盤と誤解されても不思議では無い(笑)。このジャケット・デザインにだけは目をつぶって頂きたいですね(笑)。
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