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2014年4月12日 (土曜日)

フリー・ジャズをバックに唄う

子供の頃から、春には狂気が潜んでいるように感じている。寒い冬がようやく去って、心地良い麗らかな春がやって来る。皆、心ウキウキ、喜びと開放感満点の陽気。でも、そんな陽気の底に、何かドロドロとした危険な香りのする「狂気」を感じる。春独特の、生命感が溢れる春ならではの「狂気」。

春はジャズ・ボーカルの季節と感じているが、このアルバムは、その「春の狂気」を感じさせてくれる、心地良い麗らかなフレンチ・ポップ風の歌声の裏に、フリー・ジャズの狂気がしっかりと横たわっている。このアルバムは、フランスの女性ジャズ・ボーカリストと米国のフリー・ジャズ・バンドとの一期一会の邂逅を捉えた、素晴らしい共演盤。

そのアルバムとは、Brigitte Fontaine『Comme à la radio』(写真左)。1969年11月のリリース。『Comme à la radio』のタイトルは仏語。邦題は『ラジオのように』。Brigitte Fontaine(ブリジット・フォンテーヌ)は、フランスのアバンギャルド・ミュージックの女性ボーカリスト。1940年生まれだから、このアルバムをリリース時は弱冠29歳。

このアルバムは、フランスのアバンギャルド・ミュージックの女性ボーカリスト、ブリジット・フォンテーヌが、当時、フランスで活動していた、米国出身のフリー・ジャズ・バンド、Art Ensemble Of Chicago(以下、AEOCと略)との共演盤。

しかし、この盤に初めて出会った時、フリー・ジャズ・バンドをバックに従えて、歌を歌いまくるって、これって何なんだ、と思った。そんなことが可能なのか、とも思った。だって、フリー・ジャズをバックに唄うんでっせ。どうやって唄うんだか(笑)。

冒頭のタイトル曲「Comme à la radio」を聴けば、なるほどな、と思う。ボーカルのパートは、しっかりとアレンジされたフレーズをしっかりと守りつつ、AEOCは神妙に、アブストラクトな雰囲気漂う、攻撃的な伴奏をキープする。そのAEOCをバックに、ブリジットは魅惑的な仏語で、妖艶にアブストラクトに語りかける様に唄いまくる。
 

Comme_a_la_radio

 
実に魅惑的な、実にプログレッシブなボーカル盤である。なるほど、これは「あり」ですね。しかし、他にこのコンセプト、つまり、フリー・ジャズ・バンドをバックに従えて歌を歌いまくる、というコンセプトを踏襲したアルバムを他に知りません。

恐らく、このアルバムの成功は、フランスのアバンギャルド・ミュージックの女性ボーカリスト、ブリジット・フォンテーヌがボーカルを取ったこと、それも妖艶な響きのする仏語で唄ったこと。そして、AEOCが、フリー・ジャズ・バンドとして、そのアブストラクトな雰囲気を湛えつつ、しっかりアレンジされた、優れた伴奏を提供したこと。この2点が邂逅し、一期一会な化学反応を起こした結果だと推察している。

それにしても、このボーカル盤の雰囲気は、他のジャズ・ボーカルのアルバムとは全く異なる、とてもアバンギャルドで、とてもフリーキーなもの。ブリジットの歌声は徹底的に妖艶であり、徹底的に攻撃的だ。しかし、その歌声は心地良い響きであり、ポジティブにアバンギャルドだ。

う〜ん、このボーカル盤の雰囲気は文字ではダイレクトに伝え難いなあ。是非とも聴いて欲しいですね。聴けば判る。このアルバムの妖艶さと攻撃性、そして、そのアバンギャルドな歌声の心地良い響き。

このアルバムを聴くと、いつも「春の狂気」という言葉を感じる。喜びと開放感満点の陽気陽気の底に、何かドロドロとした危険な香りのする「狂気」。春独特の、生命感が溢れる春ならではの「狂気」。そんな「狂気」が潜む、とっても魅惑的なボーカル盤。ジャケット・デザインも妖艶かつアバンギャルドで、このアルバムの内容を良く表している。

 
 

大震災から3年。決して忘れない。まだ3年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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