ビッグバンド・ジャズは楽し・27
ギル・エバンスは、ジャズのコンポーザー・アレンジャー・ピアニスト。スモール・コンボからビッグ・バンドを主宰し、その独特の音世界はギル・エバンスだけが表現できるもの。ただ、彼はその才能に見合う、社会的成功には恵まれなかった。まあ、そういうものに無頓着だったことが原因だったらしいのだか・・・。
ギル・エバンスの独特の音世界について、判り易く体感できるアルバムがこれ。The Gil Evans Orchestra『Out of the Cool』(写真左)。1960年11〜12月の録音。このアルバムを聴けば、ギル・エバンスのアレンジの個性がとても良く判る。
アレンジの個性を体感するには、まずはアルバムを聴いて頂くのが一番で、こうやって文字にするのは、なかなか骨が折れる。しかし、アルバムを聴く時の一助となるよう、なんとか、ギル・エバンスの音世界の個性を文字にしてみる。
まず、手始めに、ギル・エバンス・オーケストラのパーソネルを確認したい。オーケストラのパーソネルは以下の通り。
Gil Evans - piano
Johnny Coles - trumpet
Phil Sunkel - trumpet
Keg Johnson - trombone
Jimmy Knepper - trombone
Tony Studd - bass trombone
Bill Barber - tuba
Ray Beckenstein - alto saxophone, flute, piccolo
Eddie Caine - alto saxophone, flute, piccolo
Budd Johnson - tenor saxophone, soprano saxophone
Bob Tricarico - flute, piccolo, bassoon
Ray Crawford - guitar
Ron Carter - bass
Elvin Jones - drums
Charli Persip - drums
ギル・エバンスのアレンジ独特の個性を演出する楽器として、まずトロンボーンの数の多さとベース・トロンボーンやチューバ、バスーンといった管楽器でも低音部を強調する楽器を多用していること。これが、ギル・エバンス独特の音の個性の「肝」の部分である。
とにかく、ギルのアレンジは独特な音の響きがある。ひとつはこの管楽器の選択、特に木管楽器の採用にある。これが、他のジャズの音の響きとはちょっと違う、クールな響きを演出している。
もうひとつ、ギルのアレンジの個性については、ユニゾン&ハーモニーの音の重ね方、音の盛り上げ方、音の抑揚の付け方にある。これはもう聴いて頂くしか無いのではあるが、ギルのアレンジの方向性は、それまでのジャズ・オーケストラのアレンジとは一線を画すもの。それはそれは個性的なものである。
ジャズ・オーケストラにおいては、他のリーダーがオーケストラ全体のアンサンブルに重点を置いていたのに対して、ギルは個性的なソロイストに焦点をあて、ギルのアレンジ独特のオーケストラのバッキングとリズムの上で、そのソロイスト達の演奏を散りばめるという、いわばジャズの本質を前提とした個性的で芸術的なもの。「音の魔術師」と呼ばれる所以である。
つまりは、それまでのジャズ・オーケストラのアレンジの方向性は、アンサンブルのアレンジ重視の、所謂、娯楽としての音楽、ポピュラー音楽として楽しめる様なアレンジの方向性であった。デューク・エリントンしかり、カウント・ベイシーしかり。
しかし、ギル・エバンスのアレンジの方向性は違う。あくまで、ソロイストの演奏を全面に押し出して、ソロイストのアドリブ・フレーズを活かし、オーケストラの演奏は、あくまでその惹き立て役に徹する。ジャズをアートとして捉え、オーケストラをあくまで、ジャズのインプロビゼーションの一部として見立てた、当時としては斬新なものであった。
この『Out of the Cool』を聴けば、それが良く判る。確かに、ギルのアレンジされたオーケストラに、ソロイストの演奏が惹き立てられ、演奏全体の雰囲気が実にクールに、実にアーティスティックに響く。
「ジャズ・オーケストラは、どれも画一的で面白くない」と思っている方は、是非とも、このアルバムを御一聴願いたいですね。ジャズ・オーケストラに対する印象が変わること請け合いです。
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