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2014年3月26日 (水曜日)

英国のフュージョン・ジャズの雄

英国では、ロックとジャズの境界線が曖昧である。クロスオーバー・ジャズからフュージョン・ジャズの時代、1970年代の英国では、突然、プログレッシブ・ロックのバンドが、クロスオーバー・ジャズやクロスオーバー・ジャズをやったりする。

かのプログレッシブ・ロックの雄、キング・クリムゾンもジャズからの影響をもろ受けているし、あのプログレの体育会系バンド、EL&Pのキース・エマーソンなどは、ビル・エバンスのインタープレイや、ソニー・ロリンズのセント・トーマスなど、ジャズの名曲からの引用をよくやったりする。

つまりは、プログレッシブ・ロック系、カンタベリー・ロック系のミュージシャンが、クロスオーバー・ジャズに手を染めることが多い。よって、英国ではロックとジャズの境界線が曖昧になる。英国では、優れたクロスオーバー・ジャズやフュージョン・ジャズは、よくよく聴くと、ロック・バンドがやってたりする。

ここに、Brand Xというバンドがある。英国を代表するジャズ・ロック(クロスオーバー・ジャズっぽいが)、及びフュージョン・ジャズのバンドである。1975年に、John Goodsall (g), Percy Jones (b), Robin Lumley (key) をオリジナル・メンバーとして結成されている。

結成当時、ドラマーをどうするかで色々人選するが、キング・クリムゾンのビル・ブラッフォードは契約の関係上、参加を見送り、結局、ジェネシスからフィル・コリンズが招かれている。このドラマーの人選の変遷を見ても、プログレッシブ・ロックとジャズの境界線は曖昧である。

このBrand Xというバンド、とにかくテクニックが凄い。しかも、英国のロック・バンド特有の黄昏時の様な「ほの暗さ」と「ウェット感」が漂っている。バカテクに情緒的な雰囲気を兼ね備えわせた、いかにも英国出身らしいフュージョン・ジャズのバンドである。

そんなBrand Xのライブ盤で『Livestock』(写真左)という優れものがある。1977年のリリース。1976年9月と1977年4月、8月のライブ音源を編集したもの。ちなみにパーソネルは、Percy Jones (b), Phil Collins (ds), Kenwood Dennard (ds), John Goodsall (el-g), Robin Lumley (key), Morris Pert (per)。
 

Brandx_livestock

 
冒頭の「Nightmare Patrol」などは、テーマやアドリブが終始一貫して情緒的で、かつダイナミックな展開を伴っており、この1曲だけ聴けば、この演奏は「プログレッシブ・ロック」と評して差し支えないだろう。しかも、相当なハイ・テクニックな演奏である。情緒的でダイナミックで長尺で高テクニック。これって、やっぱり「プログレ」やん(笑)。

しかし、リズム&ビートがロックっぽく無いところが面白い。ファンクネスやスイング感は皆無なんだが、オフビートなリズム&ビートは、ハイ・テクニックを前提としたフュージョン・ジャズを想起させる。そして、英国ロック独特のウェット感が堪らない。

John Goodsallのエレギは、ほとんど、アル・ディ・メオラである(笑)。Robin Lumleyのミニムーグとフェンダー・ローズが良い味を出している。プログレッシブ・ロックな展開をしつつ、演奏の個性はフュージョン・ジャズという、英国ならではの音世界が実にユニークで、聴いていてとても面白い。

2曲目の「Ish」以降、曲が進むにつれて、プログレ色は薄れていき、フュージョン・ジャズ色が色濃くなっていく。疾走感溢れるハイ・テクニックなフュージョン・ジャズと、情緒的でソフト&メロウなフュージョン・ジャズの要素が上手くミックスされていて、Brand X独特の個性を聴かせてくれる。

アルバム全編に渡って、高テクニック、高テンションでありながら、英国ロック独特のウェット感満載で、情緒的でダイナミックな展開が個性の素晴らしいライブ音源です。

日本ではあまり馴染みの無いBrand Xですが、1970年代のBrand Xのアルバムは、スタジオ録音盤、ライブ盤共々、優れた内容を誇るものばかりで、1970年代の英国のクロスオーバー・ジャズ、フュージョン・ジャズの状況を知る上で、欠くべからざる英国バンドのひとつです。

 
 

大震災から3年。決して忘れない。まだ3年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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