ビッグバンド・ジャズは楽し・26
ジャズには「再会セッション」なんて言葉もあるが、このアルバムは、そんな言葉を超越している。『Dream Of You』(写真右)というアルバムで共演して以来、30年を経過してリメイクしたアルバムである。
そのアルバムとは、Helen Merrill & Gil Evans『Collaboration』(写真左)。1987年8月の録音。ヘレン・メリルとギル・エバンスとの共演は『Dream Of You』というアルバムでのセッションで、1957年2月以来のことになる。つまり、30年ぶりの共演になる。
しかも、この再会セッション『Collaboration』の収録曲がふるっている。『Dream Of You』の7曲目「You're Lucky to Me」が、このリメイク盤『Collaboration』では、1曲目の「Summertime」に代わっただけで、『Collaboration』の「Summertime」以外の11曲は、33年前の『Dream Of You』の収録曲と同じ。惜しいかな、収録された曲の曲順はちょっと違うんだけどね。
アルバムの作りとしては、ギル・エバンスが編曲した、ギル・エバンス・オーケストラをバックにして、ヘレン・メリルが唄いまくるという、1957年の『Dream Of You』と同じコンセプト。しかし、ギルのアレンジとオーケストラの演奏は全く違う。『Collaboration』の収録時の1987年の最先端をいくアレンジとオーケストラの演奏。
そんなモダンなジャズ・オーケストラの演奏をバックに、「ニューヨークの溜息」ヘレン・メリルが唄いまくる。ヘレンは1930年生まれなので、この『Collaboration』を録音した時は57歳。もうジャズ・ボーカリストとして、ベテラン中のベテランである。このアルバムでは、実に余裕のある、滋味溢れる歌声を聴かせてくれる。
しっとりとしたバラード曲が多いので、ちょっと地味な印象を受けるかもしれない。メリハリに欠けるという印象を持たれるかもしれない。しかし、ギル・エバンスの歌伴アレンジを活かし、愛でるには、このしっとりとしたバラード曲が、ゆったりとした余裕のある展開が絶対に必要なのだ。これはこれで正解なのである。
加えて、僕はジャズ・オーケストラとしては、このギル・エバンス・オーケストラの音が大好きなのだが、このヘレン・メリルとの共演盤でも、ギルのアレンジ、ギル・エバンス・オーケストラの演奏は、全く揺るぎが無い。ヘレン・メリルとの共演だからといって、ヘレンに迎合しているところの微塵も無い。ギル・エバンス、我が道を行くである。ギル・エバンス・オーケストラの音としては、全く申し分無い。
そのギル・エバンス、我が道を行く、というアレンジとオーケストラの演奏に相対して、ヘレン・メリルもこれまた、ヘレンの個性全開の、ヘレン・メリル、我が道を行く、という歌唱を聴かせてくれる。ギル・エバンスのアレンジに、オーケストラの演奏に迎合しているところの微塵も無い(笑)。
そうなれば、アルバム全体の演奏と歌唱は、バラバラな散漫な印象になりそうなんだが、そうならないところに、ギル・エバンスとヘレン・メリルの職人気質と意気軒昂さを感じる。この『Collaboration』での、ギルとメリルの再会セッションは爽快であり、健気である。
非常に充実した内容ではあるが、ジャズ・オーケストラをバックにしたジャズ・ボーカル盤としては、個性的で異色な響きを併せ持つ、唯一無二なアルバムである。このアルバム全編に渡る「個性的で異色な響き」をどう感じるかで、このアルバムの評価は変わるでしょうね。僕はこのアルバムの音世界、好きです。
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