ピアノ・トリオの代表的名盤・39
不思議とスティーブ・キューン(Steve Kuhn)が何故かお気に入り。キューンは不思議なピアニスト。ビル・エバンスの系統にも絶対に属さないし、モーダルな新主流派な系統でも無い。音の響き、輝きはリリカルでヨーロピアン。ジャズ・ピアニストでありながら、ファンクネスの香りは全くと言って良いほど無い。
流儀はハードバップなんだけど、ファンクネスとは殆ど無縁、モーダルな雰囲気はそこはかとなく漂うが、大っぴらにモーダルにはならない。硬質なタッチでテクニックは優秀。バップの流儀から奏法にこだわらずに、新しいジャズ・ピアノの響き,フレーズを模索する。そんな若かりし頃のキューンが何故かお気に入り。
Steve Kuhn『Three Waves』(写真左)というアルバムがある。1966年の録音。キューンの初リーダー作である。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p), Steve Swallow (b), Pete La Roca (ds)。ベースとドラムのリズム・セクションが新しい響き。まずもって、このリズム・セクションが、ハードバップでも無ければ、モーダルでも無い。ファンクネスな響きは殆ど無く、知的で透明感のあるリズム&ビートである。
この知的で透明感のあるリズム&ビートが、キューンのピアノにピタッと合致する。1966年と言えば、モード・ジャズをベースとした新主流派の理知的でアーティスティックなジャズと、ファンキー・ジャズやソウル・ジャズといった、大衆向けのポップでキャッチャーなジャズとが拮抗した時代。
キューンのトリオは、そのどちらにも属さない、新しすぎず、古すぎず、フリー&アブストラクトなジャズとは全く無縁な演奏。知的で透明感のある硬質でテクニカルな響きは実に個性的。絶対に米国的では無い。音的にはクラシックに通じる、音の響き、輝きはリリカルでヨーロピアン。
しかしながら、スティーブ・キューンは、1938年、ニューヨークはブルックリンの生まれ。生粋の米国人であり、ニューヨーカーである。白人系ピアニストなんで、ファンクネスが色濃く無いのは判るが、これほどまで希薄なのも珍しい。リリカルではあるが、ジャジーさは希薄でブルージーでは無い。そんなところが、ビル・エバンスのピアノの個性とは一線を画するところ。
ハーバード大学で文学士号を取得したジャズメンとしては一風変わった経歴を持つ。理知的で詩的なフレーズは、この一風変わった経歴が故かもしれない。そう言えば、この『Three Waves』の冒頭の1曲目「Ida Lupino」は、キューンの詩の朗読から始まるんだった。なるほど(笑)。
この『Three Waves』を録音した頃は28歳。バップの流儀から奏法にこだわらずに、新しいジャズ・ピアノの響き,フレーズを模索する、若さ故のチャレンジ精神が実に清々しい。このアルバムに収録された曲は、いずれもメロディアスなもので、流麗なフレーズが実に気持ち良い。
清々しい、流麗でリリカルなピアノ・トリオです。トリオ全体の演奏のレベルは高く、テクニックは優秀。大雑把に、ビル・エバンス派に分類されがちなキューンですが、この初リーダー作を聴いてみると、ビル・エバンスのピアノの個性とは一線を画する、知的で透明感のある硬質でテクニカルな響きを十二分に確認することが出来ます。
バックのリズム・セクションも優秀。キューンの初リーダー作でありながら、ピアノ・トリオの代表的名盤としてお勧めです。長きの間、愛聴していても、何故か飽きない優秀盤です。
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