モントルーのマイルス・1989年
1989年7月21日、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのエレ・マイルスである。マイルスが鬼籍に入るのは、1991年9月28日なので、鬼籍に入る2年2ヶ月前のライブ音源になる。
1986年のリリースの傑作『Tutu』のサウンドをジックリと煮詰めていって、この1989年で、ほぼ完成の域に至っていると思えるくらい、充実した破綻の無い、非常に良くアレンジされ、しっかりと練習を積んだ、素晴らしい演奏が繰り広げられている。
音的な印象は「ポップ&ダンサブル」。マイルスが『オン・ザ・コーナー』から追求してきた、ストリート・ミュージックとしての「ポップ&ダンサフル」なリズム&ビート。第二期エレ・マイルスは、ここに来て、その適度な軽さ、しなやかさを具備して、爽快で躍動感のあるリズム&ビートを獲得した。
ちなみに、そのパーソネルはと言えば、Miles Davis (tp, key), Rick Margitza (ts), Kei Akagi, Adam Holzman (key, synth), Joe "Foley" McCreary (b), Benny Rietveld (b), Ricky Wellman (ds), Munyungo Jackson (per), Chaka Khan (vo)。
楽器構成としては「エレギ」が無くなった。完全に『Tutu』の音をライブで追求した結果、エレギがシンセにとって代わった。しかも、シンセは、ケイ赤城とアダム・ホルツマンの2台構成。シンセのユニゾン&ハーモニ−。旋律を司る音がぶ厚く、色彩豊かになった。そういう変化が「ポップ&ダンサブル」な雰囲気に直結しているのだろう。
しかもビックリしたのが、チャカ・カーンのボーカル。それまで、マイルスは決してボーカルを入れなかった。コーラスだって入れない。そんなマイルスが、モントルー・ジャズ・フェスティバルという特別な環境ということもあったんだろうが、チャカ・カーンをボーカルに起用して、「Human Nature」を熱唱させている。
聴衆は大喜び。マイルスも笑っているようだ。モントルーの聴衆に対するファン・サービス。マイルスも柔らかくなったもんやなあ。第一期エレ・マイルスの頃は、下を向いてペットを吹いたり、後ろを向いてペットを吹いたり、とにかく、聴衆に迎合することなどは全く無縁。孤高のジャズの帝王って感じだったんだが、60歳を過ぎて、マイルスも丸くなったなあ、と嬉しくなったりする。
第二期エレ・マイルスの成熟が聴いてとれる、聴いて楽しい、1989年のモントルーのエレ・マイルスである。マイルスのキーボードでの指示がでれば、バンドの音、バンドのリズム&ビートが、スッと変わって、スッと決まる。恐らく、マイルスの思い通りの音が出ているのではないか。
マイルスのトランペットも、当時63歳とは思えないほど、張りのある、テクニカルな演奏を聴かせてくれる。オープンもミュートも、ほとんどミストーンの無い、テクニック的にもしっかりと運指した、充実したマイルスを聴くことが出来る。この時のモントルーの聴衆は、この後、2年2ヶ月で鬼籍に入るなど、全く想像出来なかっただろうな。
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