僕の愛する『安息の地を求めて』
昨年の暮れ、クラプトンの魅力的なボックス盤がリリースされた。Eric Clapton『Give Me Strength : The '74 / '75 Recordings』である。クラプトンが1974年から1975年にかけて制作した3枚のアルバム『461 Ocean Boulevard』『There's One In Every Crowd』『E.C. Was Here』を中心に、ボーナス・トラックを追加して再編成したもの。
このボックス盤、僕にとってはなかなかのお気に入りになっていて、あの頃のクラプトンのアルバムを久し振りに聴き直している。その中の一枚が『There's One In Every Crowd』(写真左)。邦題『安息の地を求めて』。
思い入れの深いクラプトンの名盤の一枚。発売は1975年3月。僕は高校時代真っ直中。このアルバム、我が映研でも放課後、ガンガンに流して聴き入っていた。ああ、懐かしいなあ。
さて、このアルバムは、先の『461 Ocean Boulevard』の中で、クラプトン自身のお気に入りとなった「レゲエ」の雰囲気と、加えて、サザンロック独特の「レイドバック」が溢れんばかりの、かなり渋い内容のアルバムだった。
レイドバック(laid-back)というのは「くつろいだ、のんびりとした、ゆったりした」という意味である。音楽の用語として良く使われるが、その場合、主にリズムの感覚を表す。具体的な例を挙げると、レゲエのリズムや、サザン・ロックのバラードなどの「ゆったりとくつろいだ感じ」が「レイド・バック」。
1970年前後のギンギンにギターを弾きまくるクリーム時代や、1990年代から2000年代のブルース嗜好クラプトンからは想像し難い、くつろいで落ち着いて達観した様な、思いっきり肩の力を抜いたアルバムである。
このアルバムの凄いところは「レゲエ」や「レイドバック」を全面的に導入し、思いっきりリラックスした中に、テンションの高い演奏が繰り広げられ、このテンションがアルバム全体のリラックス・ムードをグッと引き締めているところ。
適当にシャッフルしているように聴こえるクラプトンのギターも「キメ」の部分ではギンギンにキメまくる。その「キメ」の時間が短時間なのでうっかりすると聴き逃すが、この短時間のテンションの高いギターソロが場面場面で効いていて、アルバム全体がグッと締まっているのだ。
冒頭の「We've Been Told(Jesus Is Coming Soon)」。アコギの音が素晴らしく心地良い。2曲目は、レゲエ・ソング「Swing Low Sweet Chariot」。枯れた調子のクラプトンのヴォーカルもさることながら、バック・コーラスのマーシーとイヴォンヌもリラックスして、良い調子で歌い上げているのが印象的。この曲、今でも大好きな曲です。
5曲目の「The Sky Is Crying」は、レゲエ調の曲が多いこのアルバムの中で、際だったブルース・ナンバー。ライヴでも良く演奏される佳曲ですね。ラストの「Opposites」などは、リラックスの極みである。
クラプトンの歴史の中では、ちょっと異質なアルバムですが、ブルーズ・レゲエ・ゴスペル系の曲を中心に「軽快なジャマイカのリズム」「テンションは高いがリラックスしたアコギの音」「ここ一発のクラプトンのエレキの職人技」。心地良い「ロックな安らぎ」を感じるアルバムです。
クラプトンファンの中には「レイドバックしすぎ」とか「もっとギターを弾くべき」ということで、このアルバムって、評価が低いところもあるんですが、僕は、このアルバムは、以降のクラプトンの定番パターンを決定づける重要なアルバムの一枚であると思っています。
そういう意味で、最高傑作の座については、突然変異的な大名盤の『愛しのレイラ』に譲るが、その『愛しのレイラ』に劣らない、素晴らしいアルバムだと僕は思う。このアルバムは、クラプトンの数あるアルバムの中でも、いわゆる商業的な成功は収めてないが、コアなファンには人気が高い「隠れ名盤」なんですよね。
大震災から2年9ヶ月。決して忘れない。まだ2年9ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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